アンダーグラウンド掃討作戦(四百二十一)
調子に乗った黒星が、赤山に向かって指先を縦に振る。
するとニコニコしていた赤山の顔色が変わった。目つきも鋭くなって黒星を睨み付ける。だけでなく、顔まで黒星へグッと近付けた。
ちょっと待て。性格が豹変するのは、五番隊の特徴なのだろうか。
「お前、随分詳しいじゃねぇか。どこで知ったんだ?」
顔がマジである。声も静かだが、『ゆっくり』『はっきり』なのが怖いではないか。黒星は縮み上がってしまった。腹以外の全てが。
これは『答え方』によっては何をされるか判らない奴。
いや訂正。『何を』は『殺される』ことだけは確かだ。
その証拠に赤星が、背中に背負っていた銃をいつの間にか手にしているではないか。勘弁して欲しい。ホント『手が早い』のは。
少し離れていた赤星が一歩、二歩と前に。銃口を黒星の腹に突き付けた。その『歩数の違い』で『弾の威力』にどれだけの影響を与えるのかは図るべくもない。そんなの『痛い』に決まっている。
「おっ、俺は『黒松』だっ!」「嘘付け」「本当だっ!」
ブラック・ゼロの黒松はエンジニアらしい。だとしたら誤魔化せる。それに仲間にも『滅多に姿を見せない』と言うではないか。
だとしたら騙し通せる。この際、騙し通すしかない。
「俺達は『黒松』に会ったことがあるんだ」「ええっ?」
確かに赤山ら五番隊は黒松と面識がある。何しろ自動警備一五型に一番詳しいのが黒松なのだから。
一カ月もマンツーマンで教わっていれば、黒松の人となりについてだって詳しくなると言うものだ。
性格は『ちょっと似ている』と言えなくもないが、それはお互いに『全然違う』と否定し合うこと受け合い。他のことは?
顔と言い、体格と言い、全然違うのは明らかだ。仮に『同一人物』だったとして、短期間でそこまで『太る』には何を食ったのだ?
食糧難であることに変わりはない、このアンダーグラウンドで。
「そう言えばこいつ、最初に『宮園』って言ってましたよ?」
そうでした。あれが何日も前のことだったなら、赤星も著者と同様忘れているかもしれない。読み直して確認してきた。しかし執筆上の実時間とは違い、物語上の時間軸は『本日は晴天なり』なのだ。
「あ、あいつは俺の『影武者』なんだっ! 俺が黒松だっ!」
腹にめり込んでいる銃を手で払い除けようとすれば、それは直ちに撃たれる。だから左手で胸をドンドンと叩くのみ。
「そうなのかぁ?」「そんなこと、誰も言ってなかったっすよねぇ」
赤山が、黒星と赤星を交互に見て確認しようとしている。
しかし赤星も『そんな設定』は誰からも聞いていない。幾らブラック・ゼロと言えども『影武者』を立てる必要があるのかは疑問だ。
「俺の方が『コイツ』に詳しいんだっ!」
今度は自動警備一五型を指さして叫ぶ。
二人共それは否定しない。だからこその『疑い』なのだ。つまり黒星が、『陸軍のスパイ』だと思ってのことである。
「何しろ俺が、直に『影武者に仕込んだ』んだからなっ!」
グッと胸を張る黒星。それを見た赤山と赤星が、『どう思う?』と顔を見合わせる。赤山が真顔で頷くと赤星も頷いたではないか。
『カチャン!』「馬鹿やめろぉっ!」




