アンダーグラウンド掃討作戦(四百十七)
「いてっ。いちいちぶつなよぉ」「良いから教えろよぉ」
人のことをぶっとばしておいてその言い草。何なのこいつは。
黒星は心底赤星が嫌いだ。今日会ったばかりなのに、この馴れ馴れしさも嫌いだ。人の都合を全く考えない所も。
「なぁ? おら吐けっ」「だから、殴んなって!」
「こんなの『殴った内』に入らねぇよ」
赤星は右手を伸ばして黒星と勝手に肩を組み、その上左手で腹を殴っている。言葉尻とは違って、軽く『ポヨンポヨン』と波打たせている程度なので、食べた物がリバースすることはないだろう。
「いてぇんだよっ! 俺は『繊細』なのぉっ!」
パンッと赤星の左手を弾く。そのまま右手を強く振ってアピール。
しかし赤星は、弾かれた左手を右耳に添えると、ニヤリと笑った。
「千歳? 『アラフォー』の間違いじゃねぇのぉ?」
「アラフォーじゃねぇっ! 俺はまだ三十四歳だっ!」
確かに『アラウンド・フォーティー』が四捨五入して『四十歳』を意味しているのなら、黒星の主張は正しい。
「『千歳』から『若く見積もってやった』のに、何怒ってんだよ」
あれ? 真顔で見つめられしまったら、何か返す言葉が。
「うるせぇんだよ。『アラフォー』とか言うからだ」
声のトーンも落ちてしまった。情けない奴め。そこへ赤星が、再び黒星の腹へ。今度は手を垂直にして腹へ突き立てた。
「もう十分『おっさん』じゃねぇか。えぇ?」「やぁめぇろぉよぉ」
腹を『タプタプ』させて笑っている。黒星は呆れるばかりだ。
「ある筋からの情報によるとなぁ」「おう。それだよ。聞かせろ」
真面目に話を始めると、赤星も腹を突っつくのを止めた。肩を組む手をグッと引き寄せて『ヒソヒソ話モード』だ。誰もいないのに。
「陸軍同士で『争い』があるんだってよ」「何処と何処が?」
「そこまで知らねぇよ。片っ方が731部隊なんだろ?」「続けろ」
「731部隊の方は『助けたい』って言ってた」「ほぉ。誰を?」
「そりゃぁ、アンダーグラウンドに巣食う奴らをだよっ」
言ってから『しまった』と思う。まさか自分が『ここに落ちる』とは思ってもいなかったのが丸出しで、しかも侮蔑まで込めて。
咄嗟に身構えた。赤星に殴られるのを覚悟したからだ。
「続けろ」「続き?」「そうだよ続きだよ。お前、聞いたんだろ?」
別に怒ってはいない? 怒るとしたら『続きを話さないこと』か。
黒星は色々あって悩むが、取り敢えず続きを話す。
「保護して『雨に溶けない体』にしてくれるって噂」「マジでか?」
「いや、本当かどうかは知らないよ?」「騙されてんじゃねぇの?」
再び赤星が黒星の腹をド突く。黒星は痛くもないが顔は顰める。
「でも詳しくは『軍事機密だ』って言われたからさぁ」「へぇぇ?」
「あ、信じてないなぁ?」「信じる信じるぅ。でも、怪しいなぁ」
「信じてくれよぉ。ちゃんと『神田』って奴から、聞いたんだよぉ」
懸命な訴えに、赤星が突然『驚きの顔』になった。黒星を指さす。
「『噂』じゃなくて、お前が直接聞いたのか?」
あれ? ちょっとマズイか? どうやって言い逃れよう。




