アンダーグラウンド掃討作戦(四百十六)
本当に撃つ気だ。撃たれたことはないが、そうだと判る。
白鳥は両手を上げたまま固まっていた。瞬きもしていないことに、理由なんてない。本人もそこまで考える余裕がないからだ。
何かしらの格闘技を身に着けた器用な者なら、ここからパッと踏み込んで『制圧する』なんてことも、できるのかもしれない。
しかし、普段扱う刃物が『爪切り』の白鳥にとって、そんなことを考える余裕はない。人生残された時間の全てを、『子供の頃の想い出』で埋め尽くしている所だ。はい成人式。終わり。
「ちっ」『カチャッ』
赤星は撃たなかった。それは白鳥が可愛かったから?
いや、赤星はそれでも撃つだろう。『自分の命が危ない』と感じたら、誰彼構わず殺すことに躊躇などしないタイプだ。
例え相手が『親兄弟』であったとしても。何回でも。
一方の白鳥は『自分を撃たなかった理由』について、不問として流す決意を固めていた。既に視界から消えているのだが。
今ここで余計なことを聞いては、パッと振り返って撃たれかねない。思い出せ。さっきは『多分仲間』である巨漢の男にも、そうしていたではないか。
「起きろっ!」「いてっ。蹴るなよぉ」「うるせぇっ!」
後ろからの声を聞き、白鳥は手を降ろして振り返った。
確かに、直接的な原因は『こいつのせい』と言えるだろう。だから、蹴り飛ばされたことに同情の余地はない。
戦場で『根本原因』なんて、調査されることはないだろう。
「俺が悪いんじゃねぇよっ!」「じゃぁ誰だよ」
黒星が『よいしょ』っと立ち上がりながら叫んでいる。
邪魔しない所を見るに、赤星も早くこの場を去りたいのだろう。
「先生が押したんだよっ!」「じゃぁ、お前が悪いんじゃねぇか」
ビシっと白鳥を指さして、根本原因を明らかにしているではないか。しかし赤星は冷静に、それを『単なる言い訳』と捉えたらしい。
笑いながら顎を下から上に振り、落ち着いた口調ながらも煽っているのは明らかだ。
「何でだよ」「お前に先生が、アタックする訳がないだろう?」
低い声で理由を求める黒星。そこへ『正論』いや『一般論』で返されたものだから、黒星だって頭に来る。
黒星に言わせれば『それこそ、てめぇの推論だろうが』である。
「何でだよっ! そんなの本人に聞いて見ないと判んないだろう?」
鼻息も『フンッ』と荒く言い切ってやった。勿論、真っ直ぐに赤星を見つめながら、白鳥を指さしての懸命なアピールタイムだ。
「先生どう?」「ごめんなさい」「ほら見ろっ」「ちょっ!」
赤星からの問いに、白鳥の返事は物凄く早かった。
何しろ赤星から遅れること一秒も経たない内に、黒星も白鳥の方を向いていたのだ。白鳥の『困った顔』にはそそられるものが。
しかし見えたのは、頭を深々と下げる白鳥の姿である。
「ちょっとせんせぇ」「ほら行くぞっ。来いよ」
「本当に押したんだってばっ」「だから、謝ってるじゃねぇかよ」
黒星は『どっちだよ』と聞きたい。どっちだとしても嫌だが。




