アンダーグラウンド掃討作戦(四百十五)
白鳥は勢い良く診療所を飛び出していた。
ホワイト・ゼロに参加した際、『医者だからこそ撃たれる』という注意事項も聞いてはいる。今まで撃たれたことは皆無だが。
敵にしてみれば、『折角倒したのに医者が復活させやがった』と言うことらしい。だから医者を見つけたら先ず殺さないと、戦争には勝てないと思う輩もいるのだ。
ここで『何が正義か』を問うつもりはない。互いが信じる『正義』をぶつけ合うのが戦争なのだから。問うこと自体が無意味だ。
何年も『人のため』と勉強して、時間も金も掛けて初めて医者となる。それが銃弾一発で無駄になってしまうのだから、戦争とは『虚しい』意外に言葉が見つからない。
「聞いてたわよっ! 何してるのっ!」「えっ? 先生?」
両手を万歳して、片足で立っている黒星の姿を発見。白鳥の声を聞いて、パッと振り返っている。
巨漢に隠れて良く見えないが、その先に居るのは赤星に違いない。ジッと上を見ていた。走りながら白鳥も上を見る。
人工地盤を支える柱に取り付けられた長い梯子が見えた。
その天井付近で動く白い影。腰下まである白衣がヒラヒラと波打っている。あの白いのは恐らく白井。白衣の白井だ。
いや『白いのに影とは』などと、突っ込んでいる場合ではない。
赤星が銃を構えて、上に向けたではないか。
「ちょっと止めなさいよっ!」「うわぁぁぁっ」
白鳥は全力で黒星へと体当たりしていた。
黒星が両足を広げて踏ん張り、両手を広げて待ち受けていたならば。結果は明白だ。白鳥が飛び込んだ所で『快楽の餌食』となるだけに違いない。それ程の体格差があった。
それが片足で突っ立っているときならどうなるか。
『ムニュン』「おっとっとっとっぉ!」
実際白鳥が飛び込んでみると、『脂肪の壁』にぶち当たっただけで痛くはない。黒星が両手を上げていたのも白鳥に幸いした。
白鳥に抱き付くのではなく、倒れ行く自分の保身へと両手は動いていた。上げていた右足がドンと地面に着地しても、何らの支えにもなっていない。そのままつんのめって行くばかりだ。
『タンッ!』『チーン!』
発砲直前の赤星に黒星が激突。空中に放たれた弾丸は、反響した音から金属に当たったであろうことが判る。
「何だこの野郎っ!」「俺じゃないよっ! いてっ」
肩当てで腹を殴られてしゃがみ込む。殺さなかっただけマシにも思えるがそれには理由が。もう一度上に向かって構える。
『カンカンカン』
勢い良く響く足音。金属製の水平通路を走っているのは判るが、見えるのは白衣の裾ばかりだ。撃っても当たりそうにない。
あっという間に非常口に飛び込んで、白井は見えなくなった。
「何やってるっn!」『カチャッ』
白鳥の怒号も途中で止まる。思わず両手を上げていた。目の前には金属製の筒が。所謂『銃口』が突き付けられていたからだ。
最初に教わった『注意事項』を思い出していたのだが、まさか『味方から狙われる』とは、思ってもいなかった。




