アンダーグラウンド掃討作戦(四百十四)
「それじゃぁ治療したって、意味なぁいじゃぁぁんっ!」
笑っているが、赤星は内心穏やかではない。やはり白井は怪しい。
白井に連れて行かれた奴らは、『基本帰って来ない』とさえ思える。何処へ行っているのかは判らないが。
「別に良いじゃないっ!」「いや、良くはないでしょぉ」
赤星が大げさに『意味が無い』なんて言ったものだから、白鳥もムキになっていた。語気を荒げて叱り付ける。
「皆が皆、好きで戦争やってる訳じゃないでしょぉ?」
白鳥は知っている。アンダーグラウンドに好き好んで来る奴は居ない。皆『仕方なく』やって来るのだ。
そこで最初に出会ったのが『反社勢力』ならば、麻薬製造や販売等、違法な取引に駆り出される。それも食うためだ。
そうではなくて、『東京地下解放軍』と最初に出会ったなら、『少しはマシなのか』と言えばそうでもない。
手に職が無ければ『行先はレッド・ゼロ』と相場が決まっている。
そうなれば相手は『優しい警察』ではなく、『本職の軍隊』と対峙することになるのだ。幾らの借金を背負って逃げて来たのかは知らないが、到底受け入れ難いに違いない。
怪我をしても『保険治療』が出来る訳でもなく。
その後の生活だって、楽になる保証は何処にもないのだ。
それがラッキーなことに『体が治った』なら、逃げ出す者の一人や二人や三人や四人や五人や六人や七人位は居てもおかしくない。
「俺は好きで戦っているぜ?」「えぇっ? あんた、頭、大丈夫?」
ある意味『そう見える』から不思議だ。見た目通りに。
しかし『医者として』は心配になる。頭がおかしい人が混じっていては、『後ろから撃たれるか』を常に心配しなければならない。
冷たい言い方だが、作戦中に『プッツン』しちゃった兵士は、文句を言う前に『その場で殺されてしまう』ことも有り得る。
味方が危険に晒されてしまうからだ。
「俺はもう、イカれちゃってるのかもしれないなぁ」
白鳥の『嫌味』もあっさりと躱し、赤星は病室を出て行く。
「頭は専門外だけど、診てあげるからねっ!」
後ろから声を掛ける。確かに白鳥の専門は『小児科』であって、『精神科』とか『脳外科』ではない。
『そんときは宜しくっ!』
あいつまだ聞こえていたのか。大きな声で返事が返って来た。
『おぃおぃぃ。すっごい汗だなぁ。勝手に『足チェンジ』すんなよ』
『いてぇっ』『ほら降ろすなぁ』『もう降ろしても良いだろう?』
忘れていたが、あの巨漢の男、まだ『片足』で立っていたようだ。
『まだだ』『えー』『ほら、手もシャンとして、ピッと上げろぉ!』
『もう良いだろうよぉ』『良いかどうかは俺が決めるんだよっ!』
声だけのやりとりが聞こえて来て、白鳥は肩を竦めて苦笑いだ。
声が聞こえなくなったので、巨漢の男も『万歳片足立ち』を再開したのだろうか。軍事訓練は経験が無いので、口出しも出来ないが。
『あの『白いの』を片付けて来るから、それまで同じ姿勢なぁ』
診察に戻ろうとした所に聞こえて来た声。それに遠ざかる足音。
そう言えば『次へ行く』と言っていた『白井の笑顔』を思い出す。




