アンダーグラウンド掃討作戦(四百十二)
「しっ、白井先生はっ、凄く面倒見の良い先生ですよ?」
銃で脅されてはいないのに答えるのがやっと。少々気の毒である。
「そうなんだ。先生ぇ、手、降ろして良いですよぉ?」
「あっ、はいぃ」「治療もどうぞ」「すいません」
促されて白鳥は処置を続行だ。怯えていた患者の方も頭を下げた。
さっきまで『重症者なんて、撃ち殺してしまえ』と考えていても不思議ではない。だから怯えて座っていたのだ。勿論今も怖い。
だから白鳥が、骨折した左手にもう一度『添え物』を当てようとしていても、黙って赤星の方を見ているだけ。
「先生もしかして」「何でしょう?」
赤星に指摘された白鳥も答えるのがやっとで、慌てるばかりだ。
「その左手、もう一度折った方が良い?」「え?」「止めて!」
親切心からの一言なのだが、白鳥も怪我人も慌てている。
「あぁ、一丁あがりっ!」「いてぇっ」
誤魔化すように左肩を『バシン』と叩いたものだから、怪我人が飛び上がって痛がっているではないか。それには白鳥も驚く。
「あらごめんなさい」「先生、意外と酷いなぁ」
慌てて手を伸ばすが、怪我人の方は右手を伸ばしてそれを拒否。だから横で見ていた赤星が、余計な一言を申し述べている。
「大丈夫です。ありがとうございます」「大事にしろよぉ」
怪我人は頭を下げると、足早に病室を出て行ってしまった。
その背中に赤星が声を掛けても、会釈も礼もない。ちらっと振り返って『危ない奴の顔』を覚えるのに必死だ。行ってしまった。
次の患者を診ようにも、赤星がいる間は誰も白鳥に近付こうともしない。『次は誰?』と辺りを見回すが、誰も来ないので溜息だ。
「もぉ。何の御用ですかぁ?」「だから白井先生のことですよ」
少々イラついて更問。しかし赤星はヘラヘラしていて、白井の情報について聞き出そうとするだけだ。
「だから、凄く面倒見の良い先生ですってばぁ」
語気を強めて再度説明。しかし赤星に『納得する』様子はない。
「いつからいるの?」「もう何年も前からですよぉ?」
「何処の病院に送ってるの?」「いや、それは聞かない約束で」
白鳥は白井について知っていることが意外と少ないと気が付く。
「ちょっと『お見舞い』してやりたいんだけど」「貴方がぁ?」
しかし赤星が『変なこと』を言うので思わず嫌みっぽく言う。
「そうだよぉ? 入院している仲間をさぁ」「仲間? 貴方がぁ?」
やっぱり変だ。今さっき『仲間』に銃を突き付けていたのに、どの口が『仲間の心配』をするのか。小一時間問い詰めたい。
「何だい先生ぇ。俺が『お見舞』しちゃダメかい?」
ヘラヘラしている赤星が自分を指さした。白鳥は思わず苦笑いだ。
「うーん。もしかして『弾丸をお見舞いする』の、間違いでは?」
ヒュッと指さす。すると赤星が歯を見せ目を見開いたではないか。
「あっ、バレたぁ? 先生、上手いこと言うねぇ」
赤星も白鳥を指さしたではないか。二人は打ち解けて笑う。
「ほらやっぱりぃ。ダメよぉ? 点滴の代わりにはならないからっ」
「じゃぁ果物にするよ。手榴弾なら良いかなぁ?」
にこやかに『実物』を出すとは、随分と用意が良い。
「ちょっと止めてっ! ここで出さないでっ!」
患者も慌てているが、一番慌てているのは勿論白鳥だ。




