アンダーグラウンド掃討作戦(四百十)
「なぁ次、俺も入るかどうか、試しても良いかぁ?」
黒星が巨体を揺らしながら聞いている。誰にって?
『俺に聞いてる?』と自分を指さしたのはミイラ男だ。この黒星、さっきから何もしていない。
片手の男を荷物用エレベータに突っ込んだのは、怪我人のミイラ男だし、結局の所『閉』のボタン操作しか、していないではないか。
何なのコイツは? 同じ組織の『仲間』とはとても思えない。
「あぁ、こんな所にあったのか。エレベータは動いたかね?」
後ろからの声にミイラ男は振り返る。白衣の男、医師の白井だ。
エレベータの扉が閉まるのをじっくりと見て、『仕事してます感』を演出していた黒星が後から振り返る。
「えぇ。動いてますよ。大丈夫です」「そうかそうか」
答えたのはミイラ男なのだが、口元が見えないからだろう。
白井は黒星の方を見て返事をしている。
「お兄さんは『黒松さん』ですか?」
ニッコリ笑っての質問に、何故か黒星が戸惑っている。
だからミイラ男の方も『あれ? 違うの?』と戸惑う。
「あのぉ『お兄さん』って、俺のことですかぁ?」
黒星が自分を指さす。いや気にしていたの『そこ』ですか?
「いやすまんねぇ。こんな『おっさん』から見れば、若い子はさぁ」
白井もニッコリ笑って自分を指さした。
「あぁいえいえ。俺も十分『おっさん』なんで」
確かに黒星の方が若いのだが『おっさん歴』は長い。
何しろ二十歳前からだから、おっさん歴はもう二十年以上だ。
「ブラック・ゼロにも世話になっててねぇ。お兄さんは黒松さん?」
改めて聞く。笑顔の医師。白井こと石井少佐は確かに軍医であるが、その実態は731部隊を率いる部隊長(今月まで)である。
所属のハッカー『カミダイスキー』から、次のターゲットとして『黒松』が書類提出されていた。何処で調べて来たのか、あれは誠に分厚い『報告書』であったと記憶している。
「こいつは『黒星』ですぜぇ」
後ろから話しに割り込んで来たのは赤星だ。
白井の顔が一瞬真顔になったのは、後ろで『カシャン』と音がしたから。答えようによっては、後ろから『ズドン』の可能性も。
「そうなんだぁ。『ブラック・ゼロの方』ではあるんだよね?」
邪魔する奴は誰だ。白井はゆっくりと振り返りながら聞くと、やはり銃口がこちらに向いているではないか。
「だったら何だ。黒星行くぞっ! こっちへ来い!」
安全装置がどうなっているかなんて、確認は出来ない。今度は黒星に向かって銃口を振っているからだ。白井は流石に動けない。
『こいつ、軍事訓練を受けていないのか?』と思うばかりだ。
確かに、弾が装填されている/いないに関わらず、『銃口を味方に向けるな』は、銃の取り扱いの訓練で一番最初に教わることだ。
テロリストだからって、それで良いのか? 良く無いはずだ。
「黒松さんによろしくぅ」「はい。判りましたぁ」
「てめぇ、余計なこと言ってんじゃねぇっ!」「ブヒィィ」
二人が見えなくなってから、白井が笑顔で振り返った。
「私がエレベータを操作してあげるから、安心していきなさぁい」




