アンダーグラウンド掃討作戦(四百九)
パタンと扉を閉めてハーフボックスが動き出す。
本部からを含め、これで二十五人は『研究所』に送っただろうか。
アンダーグラウンドの住人は、実に都合の良い『検体』である。人体を使用した実験をするのに、本物の人間は欠かせない。
行方不明になって五年も経過すれば、戸籍上は『死人』と相成る。だから、研究所でゆっくりと余生を過ごして欲しい。
医者ではない井学大尉は、研究所で何を研究しているのかは知らない。何となく判ることは『病気にならない研究』だろうか。
いや、もしかして『副作用を抑える研究』なのかもしれない。
医者である石井少佐はきっとご存じなのだろうが、聞く気もないし、聞いても教えてはくれないだろう。
「この調子だと、もう終わりですかねぇ?」
呑気に答える臼蔵少尉。彼も一丁前に白衣を身に纏っているが、列記とした軍人であって、医者でもなければ看護師でもない。
ただ何度も『任務』をこなす内に、パリッとした白衣を着ていれば、医療関係者に見えなくもない。
しかし、馬子にも衣裳とは言い難い。馬子にも、衣装にも、大分失礼な気がするからだ。
「少佐も『身バレ』すると危ないからなぁ」
肩を竦めて井学大尉が答える。すると臼蔵少尉がクスっと笑って、井学大尉を指さしたではないか。
「作戦中は『階級』とか無しっすよぉ?」「判ってるよぉ」
上官に向かってタメ口であるが、そこは気にしないでおく。
部隊に帰るまでが作戦だ。だから白服を着ている間は、『白学さん』と『白蔵さん』である。
今は二人きりなので、気が緩んでいるだけだ。
「あと『中佐』ですよ?」「知ってるよぉ。でも来月からだろぉ?」
「そうなんですか?」「知らないのかよ」「知らなかったですぅ」
軍の『昇進について』だって機密事項のはずなのに、ペラペラ喋っている辺り、やっぱり気が緩んでいる証拠だ。
「迎えに行った方が良いですかねぇ?」「どうだろう」
白蔵に言われて、白学は腕を組んで考える。
仮に『身バレ』したとして、決定的な証拠でもない限り拘束されることはないだろう。勿論、いきなり『ズドン』なんてことも。
診療所でのやり取りを見た限り、『白井医師』としての信用を確立しているように思える。
「大丈夫じゃないかなぁ。多分、戻って来られるよ」
白学は笑顔で結論を話し、梯子の方を指さした。
「あっ、面倒なんでしょぅ? 梯子ぉ。じゃぁ俺行きましょうか?」
これを『若さ』と結論付けるには癪に障る。白蔵は車に寄り掛かっていたが、ピョンと体を起こして一歩前へ。今にも行きそうだ。
「止せよ。お前上から『シューッ』って行くつもりだろう?」
白学は見えない梯子を掴んで『中腰の姿勢』をしてみせる。どうせ白蔵は『長距離梯子アトラクション』をやりたいだけなのだ。
すると『バレたか』とばかりに白蔵が笑い出す。
「えぇ。そのつもりですけど」「馬鹿、止めろ」「何でですかぁ」
本気で止めているのに、渋い顔で食って掛かって来るではないか。
「少佐の顔に『ケツ』めり込ませるつもりかぁ?」「いや……」




