アンダーグラウンド掃討作戦(四百八)
「誰だい? その『怖い人』ってのは?」
質問しながら白学が最後の扉を慎重に開けた。
肩を貸しているのは片足の男。だから都合上、扉の向うを一緒に覗き込む。大丈夫。誰もいない。車もそのままで止まっている。
「そろそろ到着か?」「あぁ。この先だ」「助かった。ありがとう」
もう少しなら耐えられる。苦悶に満ちているがそんな表情だ。
怪我人三人と白衣の二人は、無事目的地に到着だ。
「仲間を連れて来た奴だよ。黒星と一緒にさぁ。なぁ」
ミイラ男は赤星のことを知っているらしい。
「ごめん。俺は見ていなかったよ」
聞かれた片腕の男は知らないようだ。白学は白蔵に合図して、車を移動するように指示をする。
「何だ。あいつほら、五番隊に引き抜かれて行った奴だろぅ?」
ミイラ男が片手の男に話しかけるが首を横に振る。
「いや判らん」『プゥルルルゥ♪』「おっと、これで行くのかい?」
会話の間にモーター音が響いて、ミイラ男が車を指さした。
しかし白学が手を横に振る。そして車が移動して見えて来た壁の方を指さす。ミイラ男もそれを見て納得の表情だ。
「これは違うんだ。『コッチ』だよ」「だと思った」
現れたのは『ハーフボックスの点検口』である。窓のないハーフボックスに乗車中は、通常誰の目にも触れることはないだろう。
ハーフボックスにトラブルが発生して、緊急停止する場合の『非常駐車帯』とを結ぶ『ハッチ』があって、そこから外に脱出することができるものである。お世話になった者は少ないだろう。
物知りのミイラ男にしても、珍しいに違いない。表情までは判らないが『これが噂のかぁ』と見学中だ。
そこへ白蔵が車から降りて来て、ハッチの操作を始めた。
「まぁ『危ない奴』なんで、逆らわない方が良いかな」
ハッチの前から退散しながら白学に、そして知らないであろう仲間にも忠告している。目が合った白学は頷く。
「気を付けるよ。五番隊な?」「そう。五番隊は危ない」
言い方からして、多分『判ってくれて嬉しいよ』の意味も込みなのだろうが、ミイラ男の表情は目が一つだけなので詳細は不明だ。
「おぉ、これが『楽園』へ導いてくれるのかい?」
揉み手をしながら、開いたハッチの先を覗き込む。
ミイラ男は元気だ。きっと『楽園』でも活躍してくれるだろう。
非常駐車帯にハーフボックスが停車すると、直ぐにレスキュー隊が飛んで来る。今回は既に『飛んで来た体』になっているので安心して良いが、余り時間も掛けられない。
それに普通は『出る専門』のハッチなので、ここから入ることは出来ないのだ。それも当然『闇の力』で改造済である。
「三人乗りだけど?」「あぁ。怪我人だけで乗ってくれ」「判った」
辛そうにしている片足の男、片手の男、そして最後にミイラ男。
一畳程のハーフボックスに押し込んで、行先の番号をサッと入力。
「迎賓館入り口に着くから、後は向うの指示に従ってくれ」




