アンダーグラウンド掃討作戦(四百四)
「えっ、乗れないんですか?」「いや冗談だよ。なぁ?」
おいおい。『子供の数』じゃないんだから、足すんじゃない。
白学は軽く白蔵を小突いて否定する。それを見た片足の患者もホッとひと安心と言った所か。表情が緩み笑顔が戻った所で問う。
「何処から乗るんですか?」「んん? あぁ、ちょっと待ってくれ」
質問をはぐらかす。親指でエレベーターの方を指さした。
全員集まってから乗るのは理解。しかし片足で立っているのが辛くなって来たのか、何処かに『座る所』を求めて首を振り始める。
白蔵がそれに気が付く。急いで段ボールを寄せ集めると、その上にそっと座らせた。辛そうだ。ゆっくりと体を倒している。
痛そうにしているが、立ちっぱなしよりかは幾分マシ。うんうんと頷いて『良いから。大丈夫』と合図している。
上半身を両手で支えているからだろう。顎を振って必死にアピール。虚空を指し示されて、白蔵は振り返った。
「良し。着いたぞぉ。ゆっくりな」「ありがとう」
丁度次の者が到着した所だ。白蔵は『手伝うから』と手を上げると、エレベーターへと向かう。それを見た片足の男はホッとしたのか、顔を顰めて臨時の段ボールベッドへと倒れ込んでしまった。
次に現れたのは片手の男だ。礼を言ってから片足を出し、上半身を引っ張って貰っている。反対側から白蔵が受け取ろうとするが、左側は血に染まっていた。伸ばした手を引っ込める。
一瞬躊躇したのは『汚いから』ではない。大きな声では言えないが、白蔵も立派な帝国陸軍士官である。
血に染まった『仲間』を救うのに、躊躇なんてするはずもない。
肘から先のちぎれた左手を見て、『今触ったら痛いかなぁ』と思っただけ。素人目に見て『包帯が一応巻かれている』としか見えぬ。
片手の男も確かに『左側は勘弁』と、右手を伸ばしてアピール。
先客が段ボールに寝っ転がっているのを見て、自分も『座らせてくれ』と手近な段ボールを指さした。支えていた白学が座らせる。
「あの『デブ』が乗って来てたら、蹴っ飛ばそうかと思ったぜ」
座った片手の男に向かって、白学が『蹴る仕草』をする。
それを見て片手の男が笑い始めた。白学も笑っている。
白蔵は意味が判らなくてキョロキョロするが、寝ている男までもが痛そうに笑っているではないか。
「誰のことだい?」「んん? 何か『黒星』って言ってたよなぁ」
同意を求めて聞いている。片手の男が笑いながら頷いた。
「何だよ。その名前は。ふざけてんのか?」「変な名前だろぉ?」
白学が『閉』を押してくれたのを見て白学は会釈。しかし同時に、質問にだってきっちりと答えたつもりだ。質問形だが。
もちろんあいつが、『この次』に乗って来ようものなら、蹴り飛ばす決意は変わらない。実際ありそうだから困るではないか。
あんなに『非人間的』な奴は初めて見た。士官学校にあんな奴が居たら、初日の点呼から永久に終わらないと思える。
「でも、ブラック・ゼロのメンバーだって、言ってましたよね」
「ちょっと信じられないよなぁ?」「そうですよねぇ」
片手の男も『ブラック・ゼロ』について『どういう奴らか』知っているらしい。井学大尉としては、是非、ご教示頂きたい所だ。




