アンダーグラウンド掃討作戦(四百三)
調理場の場所は覚えている。同じフロアの右左右。AB。
「ここだっ」「向こうの『食品庫』ですよね」「あぁ」
今は使われていないであろう厨房を走り抜ける。
営業終了直後なら油でヌルヌルだったかもしれないが、今はそんなことはない。使われなくなってかなり経つのだろう。
それに、ついさっき『クリア』を確認した所で足元も確認済。
『着きましたぁ。開けて下さーい』
急ぎ食品庫に入ると、段ボールの向こうから声がする。
やはり手前の段ボールは『ダミー』だったようだ。『上手くやりやがって』と思ってはいけない。まだ正体は明かせないのだから。
『誰かぁ!』(ダンダンダン)『もしもーし』(ダンダンダン)
叫び声に混じって、鉄製の壁を叩く音も聞こえるではないか。
二人は顔を見合わせて頷く。
「今開けるから、ちょっと待て」『白学さん?』
真暗な中での待機。そんなに時間は経過していないはず。
それでも『中で待つ者』と『外にいた者』では『時間の感じ方』は大分違うのか。僅かに聞こえた声を頼りに壁を叩き始めた。
「手前の荷物を退けているから、ちょっと待てっ!」
白学の怒号が響く。すると一瞬にして全ての音が鳴り止んだ。
響くのは『段ボールを投げ飛ばす音』と、二、三個投げ飛ばす度に聞こえる白学の『状況説明』だけだ。
「良し。開けるぞっ!」
言うが早いか『開』が押されていた。扉が開いて、中からは片足の男が自ら出て来る。怒られたからか、『助かった』と安堵の表情は見せているが、礼も言わずただ頷くのみ。
白衣の白蔵を誰だか疑う素振りもなく、むしろ手を借りて外に出た。一秒でも早く出たかったらしい。気持ちは判らんでもない。
「騒いですいませんでした」「良いんだ」
見覚えのある方の白学の方に頭を下げた。白学も苦笑いで頷きながら理解を示している。倒れないように支えるよう白蔵に目で合図。
自分は『閉』を押してエレベータを下へと送る。
「御覧の有様でしてね」「ここは何処ですか?」
散らかった段ボールを見て頷きながらも、『病院』ではないことは判ったらしい。落ち着き無く辺りを見回している。
白蔵も片足なのを見て『どうしてそうなった』のかは知らない。それでも、余程『怖い思いをした』ことだけは判る。
天井付近に飛ぶ『何か』を集中的に探す仕草。何も来ないって。それでもこの先が『安全なのか』を、必死に確認しようと覗き込む。
今回の『戦場』や『戦闘状況』を知らない『ホワイト・ゼロの二人』には到底理解できまい。実に不可解な行動である。
「あと、何人ですか?」「二人だ」「二人です」
聞かれてもいないのに片足の患者までもが答えていた。先に答えた白学の方が苦笑いで頷く。聞いた方の白蔵は困った顔になった。
それを誤魔化すような笑顔になってから、ゆっくりと話し始める。
「じゃぁ、あと四人かぁ。ハーフボックスに、乗れるかなぁ?」




