アンダーグラウンド掃討作戦(四百二)
非常口から中に入る。何が『非常』なのか判らなくなるが、気にする所ではない。暫く使われた形跡もなく、表示も消灯したままだ。
狭い通路を通って『ガレージ』に戻る。車も一応あるが、それは『救急車』ではない。万が一のためのものだ。
そこには白服を着た『仲間』が立っていた。足音に気が付く。
井学大尉の姿を見て思わず敬礼。と、直ぐに気が付いて苦笑いで止めた。井学大尉もついさっき『失態』したばかり。叱責はしない。
本人も『今のは無し』と取り繕う。急いで民間人らしく振舞おうと肩を回し、『俺は誰だったっけ』と切り替えている。
「白、白学さん、お帰りなさい」
井学の名前を間違えた。見慣れた顔を見て、ついうっかり。
「あのぉ、下の様子はどうですか?」
にっこり笑って誤魔化す。今は二人だけだし許そうではないか。
「おう、白蔵。ただいまっ。いやもう悲惨だった」
こっちは流石だ。スラスラと偽名が出て来る。が、呼ばれた方の反応がイマイチ。互いに『合ってますよね?』と苦笑いだ。
どうも『偽名』で呼び合うのに、まだ慣れていない。
街中での『お遊び』なら良いかもしれないが、『作戦遂行中』なのだから、それはどうなのか。しかし、もうちょっと格好良い『コードネーム』だったなら、良かったのにとは思う。思わせてくれ。
特に『臼蔵』と『白蔵』なんて、『印刷の擦れ』程度の違いしかない。確かに書き順で『飛ぶ』が入る、珍しい字なのだが。
「向こうのエレベータから『患者』が来るから」
井学大尉はどうしても『マネキン』とは言えなかった。
問題ない。臼蔵少尉にはちゃんと通じている。特に気にもしていないらしい。それより不思議なことがあるようだ。
「エレベータなんて、ありましたっけ?」
臼蔵少尉は首を捻る。先ずはそこからなのか。
確かに到着時、付近の『クリア』を一緒に確認している。そのときに『エレベータの存在』を、見過ごすはずもない。
あれば『封印』するなり、何らかの措置をするのは当然だ。
「それが『荷物用』のでな」「成程。それなら納得です」
井学大尉が両手を広げた後、上下にもして『大きさ』を示す。
それで理解できたようだ。そして『あるとしたら何処か』を二人で考えている。エレベータを設置するような『荷物置き場』を。
「調理場だ!」「調理場だ!」
二人で同時に叫んでいた。井学大尉は兎も角、臼蔵少尉の方は『現物』を見てはいない。それでも見回った中で、あり得る場所を考えれば調理場しかないと結論付けた。
壁際に段ボールがこれでもかと、うず高く積まれた『食品庫』があったのを思い出したからだ。
調べようにも、後で片付けるのも大変そうだから放置した経緯が。
しかしそれが『盲点』、いや『死角』だったと後悔しきりだ。
「油断できませんねぇ。一緒に行きましょうか?」「大丈夫かぁ?」
言われた臼蔵少尉が辺りを見渡す。そして一瞬考える。
往復で十五分位だろう。今までだって誰も来ていない。
井学大尉と目が合って頷く。以心伝心。今度も同じ考えのようだ。




