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アンダーグラウンド掃討作戦(四百一)

 手を上げて黒星に『後はよろしく』と合図する。

 返事の確認もそこそこに、愛想だけを残して白学は外に飛び出した。『自分は器用ではない』と思いながら。

 梯子を登りながら考える。石井少佐は『こんな活動』をずっと続けていたのかと思うと、やはりあの人には頭が上がらない。


 いや、来月から中佐だったと思い直して気を引き締める。

 中華屋で『退院祝い』と『送別会』を開いたのが嘘のようだ。

 暫くはご一緒できないものと思っていた。それがどうだ。一度『顔見世せ』として青森に出立した石井少佐が、本作戦のことを耳にして東京までとんぼ返りして来たのだ。


 まだ飛べないが、『何でもします』とお手伝いを買って出たのは言うまでもない。しかし自分には『過ぎた役だった』と感じる。

 自分には難しいことだらけだ。入院患者とは如何に我儘で、それでいて実に『人間臭い』ものなのかと思う。


 作戦遂行中の顔しか見たことがないのか? と言えば嘘になる。

 自分自身も戦闘機をダメにして、入院させられていた時期もあるからだ。研究所をダメにして退院してきたのは『つい最近』のこと。

 体が思うようにならない。軍人としてはそれが一番辛い。

 しかし今から思えば『実に幸せな入院生活だった』とも。


 ホワイト・ゼロの本部も『結構な修羅場』だったが、ここに比べれば『まだマシ』と思える位だ。

 自分が想像する『野戦病院』とは、全く違っていた。


 いつ消えるかも判らない『命の灯』を、自分の手でしか守れない悔しさ。誰の助けもない。何を考えて横になっているのだろう。

 目を閉じたまま痛みに耐え、僅かに聞こえる『励ましの言葉』は十把一絡げだ。虚しいだけに違いない。

 いや少なくとも、『耳は正常』と判るのがせめてもの救い。

 自分の名前が呼ばれる順番を、ひたすらに待つことができる。


 長い梯子を登り終えた。そこからは横移動の連絡通路を行く。

 見えて来た暗黒世界は『東京アンダーグラウンド』である。井学大尉は今日、初めて目にした光景が再び広がる。

 敢えて例えるなら『忘れられた曇天の街』だろうか。青空は無い。


 東京下町が『人工地盤の上にある』ことは知っていた。

 しかし『山の手』から『下町』と言われるエリアを含め、ずっと『真っ平』なのだから良く判らない。突然『ここから下町だよ』と言われても、見分けが付かないではないか。

 だからこんな世界があったとは驚きだ。同じ東京とは思えない。


『ここはね。『良いマネキン』が収穫できるんだよ』

 お手伝いの事前説明で、『最初に言われた言葉』を思い出す。

 良いマネキンが何故か『収穫』と表現されるのは、『丸太だった頃の名残』らしい。なるほどそうか。

 うさぎを『一羽』と数えるような、時代の流れを感じる。


 扉を開ける瞬間、遠くで『閃光』が見えた。アンダーグラウンドの廃墟群が一瞬だけ照らし出される。天井の赤は夕焼けに非ずだ。

 井学大尉が扉を閉めるとその外で、遅れて『ドーン』という音が微かに聞こえて来た。兵士の絶叫までは聞こえては来ない。

 これでまた一人、『マネキン』の誕生だろうか。

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