アンダーグラウンド掃討作戦(四百)
「俺は『ブラック・ゼロ』の黒星です」「はぁ?」
正直に申告したはずなのに、通じなかったのだろうか。
東京地下解放軍の組織について、事前に教わっている。
戦闘部隊の『レッド・ゼロ』、医療部隊の『ホワイト・ゼロ』、そして諜報部隊の『ブラック・ゼロ』だ。
南の方に『ブルー・ゼロ』という組織もあるらしいが、まだ名前しか聞いたことがない。『ホワイト・ゼロ』同様『設定情報』にも記載がないので、著者もまだ構想中なのだろう。
名前は全て『偽名』で、レッド・ゼロなら『赤』、ホワイト・ゼロなら『白』が付く。ブラック・ゼロなら当然『黒』が付く訳だ。
説明に矛盾は無いはずなのに、白学は信じていないのか。むしろ『そんな奴いたか?』な顔をして首を傾げている。何かマズイ。
「さ、最近、配属されたんだ」「えっ? あぁ、そうだったのか」
何やら白学が、大げさに驚いたような気がする。
しかしまるで『同音異義語だったか』と気が付いて、安心・納得・ホホイのホイで一件落着したようだ。大きく頷く。
突然二人が『乾いた笑い』をし始めたので、患者三人は互いに顔を見合わせている。少しばかり不安にも成り掛けた。
「白学の俺が『上』に登って扉を開けるから、黒星は下で頼む」
「あぁ、判った。任せてくれ」「一人づつ、順番に乗せてくれ」
待ち行列MM1に現在二名。何人追加されるかはポアソン分布に従うとして、黒星が乗車できるのは何分後か。
「一応言っておくが、お前は乗るなよ?」『ちっ』
笑顔の白学から念押し。しかし黒星からの返事はない。
表情はクールに『誰のこと?』と決めて、小さく舌打ちしただけだ。どうせ誰にも聞こえてはいないだろう。
「二つ折りにしても、絶対入れなさそうだよなぁ」『確かに』
余計な口を挟んだのは片手の男だ。片手ながら『二つ折り』を表現してからの手を横に振る仕草。片目を瞑って笑っている。
ミイラ男も同意して目を細めているが良く見えない。それでも軽く頷いたのは確認できた。
「何だとぉ? お前は『俺の後』な」「えぇえぇ」『ブッ』
親指を立てた黒星が、自分の後ろをグイッと指さす。
全員笑顔で和やかな雰囲気だ。そんなの冗談に決まっている。
「おいミイラ男、お前も『確かに』じゃねぇからなぁ?」「えっ」
笑顔の黒星が引き続きミイラ男を指さした。
当のミイラ男が驚くのも無理はない。包帯越しの『モゴモゴ声』を、黒星は一言たりとも聞き漏らしていなかったのだ。
そう言う所が黒星の『いやらしい所』である。
「だからお前は『乗るな』って言ってんだろうがっ! 殺すぞ?」
今度の白学には覇気がない。笑いながら『閉』を押した。
扉が閉じるまでの間、『上で開けてやるから』『よろしくお願いし……』と言葉を交わす。見えている間、手を振り続ける余裕も。
耳を澄ませて『籠が上昇する音』を確認すると振り返った。
「えーっと、ブラック・ゼロのぉ、黒豚?」「黒星だ。殺すぞ?」
一度言ってみたかったセリフを笑顔で被せる。白学も笑顔だ。




