アンダーグラウンド掃討作戦(三百九十三)
赤星と黒星は仲間を拾いながら歩き続けていた。
拾うと言っても、本当に拾わないといけないような『元仲間』は、両手を合わせてその場に放置。下はコンクリートで埋葬も出来ぬ。
じゃぁ誰をと言えば、それは『自力で動ける奴ら』だけとなる。
味方の『機動力』とも言えた自動警備一五型は、何処かに散ってしまったのか、それとも隊長が退避させたのか。
兎に角目の前に居ないことだけは確か。かと言って無線で救援を求めることも出来ない。
やはりアンダーグラウンドで戦争をするだなんて、最初から無謀なことだったのだ。息苦しいのもそうだが、暗いのが良くない。
塹壕も掘れなきゃ星も拝めないなんて、じゃぁ何処でタバコの一本も吸えば良いのか。息抜きすら許されぬ環境では、正常な判断が長続きしようはずもない。
「殺せぇっ! いっそ殺してくれぇぇぇっ! ちっきしょぉぉ!」
「そっち押さえてっ!」「はいっ!」「もう一人!」「えっ、はい」
ご指名でバタバタしている足を押さえ付けた。治療開始だ。
「男なんだから、大人しくしなさいっ!」「うぉっ! ギャァァッ」
暴れている奴を、必死になって押さえつけている奴ら。
白衣を着てはいるが、本当の医者とか、本当の看護師かどうかなんて、誰も気にしちゃいないだろう。
現に『殺してくれ』と懇願しているのだ。それは赤星にだって十分実行可能である。そっとホルスターに手を掛けていた。
「麻酔打ったけど、こりゃぁ酷い怪我ねぇ」「助かりますか?」
立ち上がって怪我人を見つめている。横に縋っているのは足を押さえていた一人。戦友なのだろう。声も震えている。
しかし女医の方は渋い顔。両手を腰に当てて溜息だ。
「ちゃんとした設備の有る所に連れて行かないと、不味いわねぇ」
「ホワイト・ゼロの本部とか?」「うーん。もっと『上』かなぁ」
首を傾げて、リズム良く真上を二回指さした。
ノリの良い音楽が流れていれば『イエイ・イエェイ♪』なのだろうが、現実はそうじゃない。
例えつられた何人もの男達が、ジョイの指先を見つめていてもだ。
「地上の病院よぉ」「何だ先生、そういうことかよ」
女医にしたって、別に『ノリノリ』な訳じゃない。
至って真面目に言っている。じゃぁ『誰が悪いのか』と言えば、実況中継している奴が一番悪い。いや悪くない。
「それ以外の何よ」「だってぇ……」
『無理じゃん』と言うのだけはグッと堪える。そんなの判り切っていることだから。
アンダーグラウンドで『治療をしてくれること』自体が『奇跡』と言って良いのだ。ましてや『医者の見立』なんて贅沢過ぎる。
「白井先生、早く来ないかしらねぇ」「誰ですか? それ」
女医の口から飛び出た名前に、誰も心当たりが無かったらしい。アンダーグラウンドで『医者』と言えば、凄く有名なはずなのに。
しかし女医にしてみれば普通のことらしい。同じ『医者仲間』なのだから当然と言えば当然。ニッコリ笑って意外なことを口にする。
「凄いのよ? 元軍医の少佐様で、地上の病院に伝手があるのよ!」




