アンダーグラウンド掃討作戦(三百九十一)
「おらっ! しゃんとしろっ!」「うわぁぁっ、殺さないでぇ!」
見え見えのカモフラージュを退けると、中から黒豚が出て来た。
トタン板はもう無いのに、それがまだあるかの如くか。拾いに行く勇気も無くて、しゃがみ込んだまま両腕で頭上を覆うのみ。
赤星は思わず溜息をつく。理不尽さも感じていた。死闘を繰り広げていたすぐ傍で、こんな腰抜けが見事生き残っていたとは。
銃もまともに扱えないこんな奴が生き残っても、戦況に何ら影響も与えない。全く、救いようのない奴だ。
「敵は引いた。ほら立て。俺達も戻るぞ」
優しく手を伸ばすが、出ている腹を凹ませて増々縮こまるばかり。
「まだ飛んでいるはずだっ! 油断したら殺されるっ!」
開発者故の恐怖心からだろうか。まさか自分で開発した兵器に殺される日がやって来るなんて、思ってもいなかったのだろう。
「何がだよ。蠅でも飛んでいるのか?」
しかし『実運用』する方は違う。むしろ逆に落ち着いていた。差し伸ばした手を引っ込めて、周りを見渡している。
確かにここで調和型無人飛行体が飛んで来ていたならば、赤星と言えでも音も無く殺されていただろう。
何も無いことを確認すると、今度は足元の黒豚、いや弟星の『黒星』を足蹴にする。『早く立て』とばかりに軽く。
一度では立たない。仕方ないから二度三度。これはもう、立ち上がるまで蹴り続けるべきか。
「ミントちゃんは甘くないっ! 甘くないんだぁぁっ!」
大声を張り上げて更に縮こまってしまったではないか。こいつの為に『周りを警戒しながら』だったのが凄く馬鹿らしい。
「しぃらぁねぇよっ!」「いてっ」「早く立て豚野郎っ!」
遠慮なく蹴っ飛ばしていた。何処だって構うものか。それでも気を使って『足』は外したつもり。こんな奴を担いで帰るのは御免だ。
それでもまだ立たないので、髪の毛を掴んで引っ張り上げる。
「いててててっ。髪はヤメロっ! 禿げるだろうがっ」
攻撃力は皆無なのに、性格だけは攻撃的なのか。命令調である。
圧倒的な戦力差を前にしてまだ自分は『対等』、または『より上位』として考える根拠を、是非示して欲しいものだ。
「いっそのこと禿げちまえよ。全部抜いてやろうかぁ?」
赤星もそれを認めているのか、それとも気にもしていないのかヘラヘラと笑うのみ。立ち上がった黒星を指さして笑った。
「禿げたらモテないだろうが。全くっ。引っ張りやがって……」
目を逸らし、うつむき加減で歩き始めた。礼なんて言うつもりもなければ、言う場面であるとの認識すらもない。ムカつくばかりだ。
味方の居場所、いやそんな者は居ない。少なくとも『自分を殺そうとしない奴』が何処にいるのかが判れば良い。そもそもアンダーグラウンドに『安全地帯』なんて皆無なのだから。良く判った。
折角立ったから、少なくとも『ココ』よりマシな所に移動しよう。
『バキュゥゥゥン』「なっ! えっ……」
銃声を耳にして、黒星は立ち尽くす。思わず腹を擦った。
今の銃声は何処からか。『後ろ』からだ。後ろには誰が居る?




