アンダーグラウンド掃討作戦(三百八十八)
「他の機体は動くのか?」「はい! あぁ、いいえ!」「んん?」
居並ぶ自動警備一五型を指さしていた山岸少尉が、思わず振り返る。両方とも勢いの良い返事。しかしどっちだ。
「あのぉ、壊れてはいないのですが、電源がなくて、ですねぇ」
「だったら、充電すれば良いだろぅ?」
決まりが悪そうに言う男。そうだ。この男は『充電担当』なのだ。
どこからともなく電源ケーブルを引っ張って来て……。ちょっと無理かもしれない。忘れてはいけない。
ここは『東京』でも、『アンダーグラウンド』であることを。
「それがですねぇ」「何だ?」「あのぉ」「だから何だ」
男がチラチラと時計を見ている。時計と隅田川の方を交互にだ。
見ていて落ち着きがない様は、時間を気にするにしては、随分とソワソワし過ぎな気がしないでもない。
まるで『これからデート』なのに、待ち合わせ場所で上官に会ってしまったような、そんなバツの悪さか。
大丈夫だ。落ち着け。人の彼女をいきなり取ったりはしない。今は『こいつ等が動くのか』を、早く知りたいだけだ。
「電源車がですねぇ、もう直ぐ来ることになっているのですが……」
「作戦開始と同時に、前進したんじゃないのか?」
スタンドプレイを重視し、その上『方向音痴』で彷徨っていた山岸少尉であるが、作戦会議には出席させられていた。
目を開けたまま寝ていたので、細かい内容までは判らない。
おぼろげな記憶によると、確か『電源車』は、『前進と共に前線』となっていたはず。
それが何故に来ていないのか。兵站の重要性について今更語るべくもないが、これでは教育的指導を加えざるを得ない。
「横っ腹を突っつかれましてね。そのときにどっか行っちゃって」
左手で横っ腹を指さしながら、右手で暗がりを指さしている。
男のそんな説明を、山岸少尉は『ジッ』と見ていた。
暫し考えて、それでも不思議そうに首を傾げる。
「横っ腹押さえてって。向こうで糞でもしてたのか?」「えっ?」
山岸少尉も暗がりを指さした。きっと『あっち』に居るのだろう。
「しょうがないけど、しょうがない奴だなぁ」「あっ、え? えぇ」
男はとりあえず頷く。山岸少尉が思いの外怒ってもおらず、かと言って責めるでもないのに驚いていた。トイレなんかに行ったら、『戦闘中だぞっ!』と、怒られるのではないかと思っていたのだ。
いや違うか。山岸少尉が判っていないだけと理解する。
冷ややかな視線にも、山岸少尉は寛容になっていた。
この作戦が『初陣』の者も多い。緊張の余り、思わずトイレに行きたくなってしまってもおかしくはない。何時でも何処でも何度でも、『出るものは出る』と決まっているのが自然の摂理だ。
それを他人が『止めよう』なんて、できるはずもない。
しかし映画でいつも見るように、トイレに行くのは『死亡フラグ』と思っていた方が良いだろう。だから戦闘前に、オムツをしておけば良いだけのこと。臭いは別として、後は何とかなる。
「あっ? あれぇ? 破壊されたのに、何で?」「何で?」
暗闇に二つのライトが見え眩しい。どうやら近付いて来る。




