アンダーグラウンド掃討作戦(三百八十五)
「この機体、俺の『隊長機』になるんで、よろしくぅ」
『カポーンッ』「えっ?」「弾『手動』なの?」「えっ?」
ロケットランチャーに弾を装填する男、同じ階級のきよピコには、何を聞かれても『えっ?』としか言わないのだろうか。
「これをですか?」「そうだけど?」「……」
何か不満があるのだろう。驚いた顔をしたと思ったら、きよピコから目を逸らす。何処を見るかと言えば山岸少尉だ。
山岸少尉には『男の意図』が判った。悲し気な目で見つめられて、直ぐさま『ピン』と来る。
きっとこいつは『マイケル』の兄貴に違いない。
見れば傷一つない綺麗な機体だ。身を挺して守って来たのだろう。
まるで、今日卸したばかりのような、ピッカピカの塗装が目に眩しい。きっと一緒にお風呂に入り、『背中の流しっこ』なんてしちゃっていると見た。オイルの滲み一つ無いではないか。
如何に可愛がって来たのかが、三秒見ただけで判る。
「こいつ、もう『バッテリー』が無いんですよぉ」「ありゃ」
どうやら『弾』と言う『おやつ』は与えても、『電力』という『食事』は与えなかったらしい。どういうこっちゃ。
食事には、もうちょっと気を使った方が良い。甘やかし過ぎだ。
「じゃぁそれは、何してるんだ?」「えっ、これですか?」
山岸少尉は『ロケットランチャー』を指さした。男は振り返る。
一緒になって指さしたのは、やはり『ロケットランチャー』である。今『弾を装填した』ばかりだが。見てたでしょ?
「何処撃つんだ? 撃てるのか?」「はい。動けないですけど」
返事を聞いて納得だ。そう言えば『目』は赤く点灯している。
攻撃ユニットには、まだ電源が供給されているのだろう。
「何? 砲台の代わり?」「砲台と言うには、ちょっとぉ」
腕を『砲身』に見立て、グルリと回しながら聞いてみる。しかし男は渋い顔で首を捻るばかりだ。山岸少尉も頷く。
「そうだなぁ」「えぇ。一発づつ装填しに来るって、ねぇ?」
威力じゃなくて? 男の理由について、山岸少尉は納得出来ない。
それを言ったら、近代化改修した『戦艦大和の主砲』だって、未だ『手動装填』と言うではないか。『砲台の運用』としては同じだ。
「少尉殿ぉ。俺、この『マイケル』が良いよぅ」
空気を読まないきよピコが、諦めきれずに機体を指さす。
「マイケル?」「あぁ、気にしないでくれ」
自動警備一五型を『ロボ』と略したり『苺』と略したり、軍隊風に『ヒト・ゴ・ガタ』と略したり色々だ。
それでも『マイケル』と略した奴を、男は見たことが無い。
苦笑いの上官の顔を見るに咎める様子もなく、意味もしっかりと通じている。
おまけに『家の小隊ではそうなの』と、言いたげではないか。
だとしたら、これ以上言うつもりはない。男は言葉を飲み込んだ。
「すまんが何機か回して、こいつを充電してくれ」「判りました」
だったら『山岸少尉のお願い』も聞きましょう。男は走り始めた。
「元気なマイケル連れて来ます!」「こいつがマッ(ガッ)痛ッ」
笑いながらきよピコの頭をゴツン。男は暫時立ち止まりまた走る。




