アンダーグラウンド掃討作戦(三百八十三)
「自分で呼べば良いだろう?」「どうやってぇ」
たなっちときよピコが、互いに手を広げて言い合っている。
幾ら『操縦のプロ』であっても、操縦する『ハンドル』とも言えるコンソールが無ければ操作はままならない。
だからさっきから『貸してくれ』と言っているのに。正確には『言おうとしていたのに』なのだが。
ダメだった。きよピコがあからさまにヘソを曲げる。
状況を理解し『暴言だから』と口には出さないつもりなのだろう。山岸少尉もたなっちも、その顔は『早く言えよ』を表す。
鈍感なきよピコにだって、それ位は判る。いやもっと酷い。二人で顔を見合わせ、溜息なんてついたらモロ判りではないか。
「仕方ない。じゃぁ俺のに一緒に乗れ。行くぞっ」
言葉通りの『しょうがねぇなぁ』な態度。山岸少尉も人が悪い。
本当は面白がっているのに、それをわざと隠して『悪役』を演じている。優しさだけでなく、時として上官には厳しさも必要。
こうして山岸少尉は、多くの(?)部下を手懐けて来たのだ。
「本当に、ご一緒しても良いんですかっ!」
あれあれ? 思いの外きよピコは嬉しそうにしているではないか。
「良いって言ってるじゃないか。早くしろっ」
「いやでもぉ。『ニ尻』したら重たくないですかぁ?」
幾ら変換しても漢字にならない『尻』の字は、きっと広辞苑には載っていないのだろう。余計な心配である。
「じゃぁ、歩いて行くのか?」「いいえっ!」
きよピコが山岸少尉の反対側に飛び乗る。ものは言い様だが、『ニ尻』と言っても、実際に穴は並べないらしい。
自動警備一五型は直ぐに走り始めた。
「これ使って『マイケル』を呼び出すか?」
山岸少尉が指さしたのは、背中に取り付けたコンソールである。
走りながらきよピコの『新たな隊長機』を決めて、それを合流させようと言うのか。随分と器用な要求をするではないか。
「えっ、使って良いすかぁ?」「二度言わせるな」「はいっ!」
きつい言い方だが笑っている。どうせ走行中に使用するつもりはない。だから『どのように使おう』が、気に留めるつもりも……。
警戒しようと辺りを見回した瞬間だった。思わずそれを中断して二度見。再び警戒し、三度目に見たときは声まで掛けてしまう。
「随分『アクロバティック』なことをするなぁ。落ちるなよ?」
両手を離したきよピコが、体を大きく捻ってコンソールの前に乗り出している。そして両手で華麗に操作を始めたからだ。
思わず笑ってしまっているが、落ちたら洒落にならない速度で走行中である。しかし昔から『バイクはノーヘル』と決めていたきよピコには、至極当然の作業に思える。
「これ、『足掛ける所』があるんですよぉ。ほら、この辺です」
「何処だよこっちには無いなぁ」「ほら、この辺ですよ。右足の所」
何だ? 足でも引っ掛けて、銃でも撃とうと言うのか?
「何処だよぉ。おわっ」「ちょっ! 大丈夫ですかぁ?」
思わず覗き込んだが見えるはずもない。バランスを崩して、落ちそうになってしまった。山岸少尉は取っ手にしがみ付く。
多分だが、きよピコは『左右逆』の説明をしていると思われ。




