アンダーグラウンド掃討作戦(三百八十一)
「おう、戻ったか。行くぞっ」
きよピコが戻って来たのを視界に捉えたのだろう。山岸少尉が早口で宣言する。きよピコは『怒られる』と思っていた所だ。
しかし様子から見て、特に『怒っている』訳ではなさそう。
「何処へですかぁ?」
ならばと、いつもの調子で聞いてみた。きよピコの『質問』に、山岸少尉はいつも『笑顔』で答えてくれている。
山岸少尉にしてみれば『思いがけない質問』だったのだろう。コンソールの蓋をパタンと閉じた状態で、『たなっち』と『閉じたコンソール』を交互に見始めた。急いでいるのに。
「説明した?」「いいえ?」
質問に質問で返す。山岸少尉から見て、たなっちの方が『賢そう』に見えるのだろう。きよピコへの説明役を、普段からたなっちに任せ気味。それでも今のは『要領を得ない回答』には違いない。
「どうしてぇ?」「ナイフ戦、してたからぁ?」
眉毛をピクピクさせながらの更問。山岸少尉の顔は笑っている。
ならばとたなっちも、笑いながら回答した。語尾が上がって、更問にも更問で返す。この様子では、何も考えてちゃいない。
「じゃぁ、しょうがないかぁ」「ですよねぇ」「判んないすよ」
何に納得したのか。山岸少尉は仮にも士官学校を出た秀才である。
勉強だけではない。相手の気持ちを理解して、諦めることにも長けているのだ。陸軍士官たるもの『諦めが肝心』なことも多々。
切り替えて『じゃぁ次』と事態を収拾させなければ、作戦続行もおぼつかない。
「フリーモードがドンドン解除されているんだ」
コンソールを持って立ち上がった。それをたなっちに託す。
たなっちは慌てた。暫く山岸少尉が使うのかと思っていたからだ。
「おっっとぉ。そうだぞぉ。大変なんだぞぉ」「はぁ」
たなっちが山岸少尉の説明に乗っかっても、きよピコにはピンと来ていない。顔は『だから何』と言いたげだ。
「俺達の配下に収めるロボが、減るってことだよ」
山岸少尉は歩きながら手を上げていた。まるで『タクシー』を止めるかのように。しかし実際に来たのは違う。
自動警備一五型の『隊長機』だ。見覚えがある。
「えぇぇっ!」「だから『早くしろ』って、言っただろうよぉ」
驚くきよピコに、たなっちが苦言。きよピコは不満気だ。
確かに『早くしろ』とは言ったかもしれないが、『フリーモードの件』については何も説明していないではないか。
しかしきよピコが拗ねている間にも、フリーモードは徐々に解消しつつあった。NJSに設置された本部からの指令が、戦場まで届くようになったからだ。当人達は知らないだろうが、それは『山岸少尉達が乗り込んだ装甲車』を通じてのこと。皮肉である。
「少尉殿ぉ」「何だ?」「これ、ここにピッタリ填まりますよ?」
たなっちが自分の隊長機に『フック』を見つけ、コンソールをぶら下げて驚いている。こいつら『仕様書』や『取扱説明書』を読んでいないのだろうか? 実際、山岸少尉も驚いているのだが。




