アンダーグラウンド掃討作戦(三百八十)
『タッッ!』
勘の通り横に飛んだ直後、地面から土煙が上がった。
怪我はない。だが油断は出来ぬ。次弾が来るだろうし、そもそも連射された内の一発が見えただけかもしれない。
赤星はそう思いながら地面に倒れ込むと、そのまま勢い良く転がって現場を離れる。こうなりゃ見栄も外聞もない。
小石やら何やらあるかもしれないが、弾丸よりはマシだ。
両手に握り締めていたナイフも、いつの間にか放り出していた。
それでも物陰に入りホッとする。一旦は命拾いだ。記憶にある弾筋から見るに、敵は少し離れた場所か。何処からなのか不明。
どうやら『眼前の敵』に夢中になっていたのは、赤星自身だったようだ。自分の命が掛かっているときは、大いに反省しよう。
「きよピコッ! 戻って来いッ! 引くぞッ!」
たなっちの声がして、一つ先の角、廃屋の陰から89式を構えたまま叫んだ。するときよピコが落ちているナイフの方を見る。
そのまま拾おうとしたのか、それとも折ろうとしたのか。
「早くしろッ! 少尉殿の命令だッ!」「ちっ」
怒号に近い声がしてきよピコが走り出す。ナイフも直ぐに諦めた模様。振り返りもせず一直線に向かっている。
きっと奴のボスである『山岸少尉』とやらの命令なのだろう。
しかしきよピコはこちらを狙い続けている。
ナイフを手放した時点でもう『丸腰』なのに、流石に拳銃の一つも隠し持っていると警戒してのことだろうか。
そうとも限らない。さっきまであれだけ沢山『敵』が居たのだ。まだ湧いて出て来る可能性が、即座に否定出来ないだけ。
『タタンッ!』
きよピコと合流すると『最後っ屁』のように発砲して姿が見えなくなった。赤星は警戒してナイフを拾いに行かれない。
こちらの居場所も判っている。だとしたら、『チラッ』と出て来るタイミングを見計らっていると警戒するのが筋。
しかし考えれば、『ピンチはチャンス』でもある。
敵の少尉が何を考えて、この状況で『引け』と命じたのか。単純なようで単純ではない。謎は深まるばかりだ。
レッド・ゼロの人的損害は集計こそしていないが、かなり多い。
ロボ戦隊を先頭に行軍を続け、敵のロボ戦隊と交戦している間に背後へと回る。そして弱点である『ロボの背中』を目掛けて、『爆弾付ブーメラン』を放っていたのだ。作戦は上手く行っていた。
しかし『気弱』な連中は、最後にチンタラ付いて来るばかり。
申し訳程度に発砲するだけ。物陰から狙いも定めずに銃口だけ向けたって、そんなんで当たる訳もないのだが。無駄撃ちも良い所だ。
だとしても『初陣の奴ら』に、戦闘経験を積ませる必要がある。借金に追われるだけの人生で、従軍の経験すらない者も多い。
だから『今日生き残った』という結果が自信につながるものだ。
そんな奴らでも陸軍から見れば敵は敵。軒並み倒して意気揚々としているはずなのにここで撤退とは?
燃え続けているロボが爆発炎上した瞬間、赤星は物陰から飛び出した。既に敵はいない。素早くナイフを拾うと反対側へと走る。




