アンダーグラウンド掃討作戦(三百七十九)
『殺った!』
赤星は確信する。まだ手応えはないが間髪入れずに来ると。
アンダーグラウンドの衛生状態は最悪である。ナイフで怪我なんてした日には、さっさと消毒しなければならない。
こんなジメジメした場所で『破傷風』なんかに罹ってしまったら、目も当てられないからだ。それは互いに判っている。
『バッ!』「なっ!」
躱された。一瞬のことで『何』が起きたのか判らない。
きよピコは、確かに右手を見ていた。見ていたはずなのにそれを避け、続く左手の二撃目さえもしれっと避けたのだ。
だから赤星が驚くのも無理はない。
しかもきよピコは、不敵にも『笑っている』ではないか。
そこで赤星は再び思い出す。『きよピコ』と言う奴を。
奴と対峙したのはこれが初めてではない。三十対三十の『単なる地域予選会』だが、そこで見掛けたのが初めてだ。
噂に聞いていた『たなっち』『きよピコ』『山ピー』の三人組。
現場に到着して直ぐに『あの三人だ』と判る。噂通りの馬鹿面にだらしない恰好で、逆に目立っていたのだ。
当時は『下っ端』であったがそれはお互い様。しかし奴らには既に『異名』があったのだ。
三人なのに『四天王』であると。一人足りないじゃないか。
戦いが始まると仲間の中から『四人目』を勝手にチョイス。
先ずはそいつを突き出して、相手の『実力』を計る。そして見事『撃退』すると決まって出るセリフがこう。
『良く倒したな。しかしそいつは、四天王の中でも最弱だっ!』
そりゃ『今決めた奴だからな』と、誰も突っ込まないのだろうか。
確かに戦場では『そんな暇』なんてない。しかも『次』が来るのかと思いきや、残りの三人が同時に襲い掛かって来るという卑怯者。
きよピコが手にしていた太い『塩ビ管』にも罠が潜む。
戦闘が始まる前に人差し指の先でクルクルと回し、『物凄く軽そう』に振り回しているが、それに騙されてはいけない。
軽そうに見えて実は、中身は『モルタル』がびっしりと詰め込まれているのだ。しかも『ここ一番』まで使用しない。
舐めていた赤星は、そいつを後頭部に食らって意識を失った。
そう。きよピコは一人では戦わない『卑怯者』なのだ。
笑って後ろに回り込むのも『作戦の内』である。確か『山ピー』の顔面に、『拳をめり込ませた瞬間まで』は意識があった。
赤星は兎に角飛んだ。実際きよピコも、赤星の攻撃を最初から『飛んで避ける』と決めていたのだろう。
二人で回転しながら『味方が来る』のを待ち、そして『銃撃』するチャンスを狙っていたのだ。
今の奴らは、生意気にも『正規軍』である。武装はどう考えても『トカレフ』ではない。そうだ。さっきまで『火炎瓶』ではなく、『手榴弾』を投げまくっていたではないか。不覚。間に合えっ!
赤星は体を横に倒し込み、飛びながらも考え続けている。
だから『神に祈る』なんてことはしない。それでいて神懸かりしたかのように、全ての動きがもの凄くゆっくりと映る。
ヒラヒラ動く上着の裾に、突然黒い穴が開く瞬間も目にしていた。




