アンダーグラウンド掃討作戦(三百七十八)
『ブンッ』『バッ』『シャッ』
無言でナイフのド突き合いが始まった。
最初は赤星から。ノーフェイントだが高速の突き。左足を前にしていた姿勢から、フェンシングのようにそのまま前へと出る。
違いは体を捻り右手を伸ばしたこと。上着の裾が揺れる程だ。
しかしそれは『予想されていた』らしく、きよピコは半時計回りに体を捻る。あっさりと躱された。逆にカウンターを取りに行く。
伸ばし切った赤星の右腕。その動きに注視しながらなのだろう。首は固定されたままだが、体の回転は続く。
最後に首をクルッと回した瞬間、軸足でジャンプ。右手に持っていたナイフを大きく振り下ろす。
腕で受けたられたなら、そのまま『折る』覚悟を込めて。
赤星も反応が早い。回転するきよピコから離れるようにジャンプ。
しかしその方向は『後ろ』ではなく更に前。左足を軸足にして、右足を外側に振りながらであった。結果としてそれは正しい。
再び向き合ったとき、一瞬だけきよピコの背中が見えた。
勢い良く振り下ろされたナイフが空しく『空を切る音』と共に、きよピコが振り返った。『ニヤリ』と笑っている。照れ隠しだろう。
今度は一定の距離を保ちながら、互いに一歩右へ。もう一歩右。
そのまま反時計回りに回り始めた。きよピコの方は、時折切先を赤星に近付けながら『オラッ、オラッ』と声を上げている。
一方の赤星はナイフを逆手に持ち、肘を曲げて刃をきよピコに向けた。そのまま手首を使ってクネクネと波打たせている。
まるで『拳法家』か、若しくは『ナイフの達人』のよう。
それとも、どこから攻撃を仕掛けられても良いように、警戒しているのだろうか。確かにきよピコは笑い続けていた。
その様子は『不思議』でもあり、勿論『不気味』でもある。
作戦なのかは判らない。イマイチきよピコには、『脅威』として映っていないようだ。それでも赤星は、決して油断しない。
両刀使い(男も女も抱けるという意味。ではない方)の赤星にとって、片手の今は『ハンデ戦』とも言える。何も持っていない左手もユラユラと揺らし、一歩また一歩と半時計周りに歩き続けていた。
目ではきよピコの視線を注視している。それは段々と『右手のナイフ』に集中しつつあるように感じられた。
大分イラついているのだろう。繰り出される切先が、段々大降りになっているのが判る。ペースも早まっていた。
口元だけは笑っているが目だけは真剣だ。それでもきよピコが踏み込んで来ないのは、赤星が繰り出した『ナイフの動き』を警戒してのことに違いない。
『オラッ、来いよ。オラッ』
今のが『何度目か』なんて、どちらも数えてはいないだろう。
赤星は左手を、単に振り回していた訳ではない。勿論、ちゃんと『狙い』があった。両手の動きを徐々に大きくして左手を後ろへ。
完全にきよピコの動きを『見切った』と確信し、背中に隠していた『二刀目』に手を掛ける。前進!
素早く抜刀すると同時に右手も振り上げる。それは『攻撃としてはダミー』であるが、きよピコの切先を『跳ね上げる目的』もある。
きよピコの視線は、完全に『赤星の右手の先』へと向かっていた。




