アンダーグラウンド掃討作戦(三百七十)
何だかんだ偉そうなことを言って、山岸少尉はコンソールを放り投げていた。目を丸くして受け取ったのは、たなっちである。
きよピコは羨ましそうな顔。重たいのは重々承知の助だが、問題はそこじゃない。山岸少尉からの『信頼』という点でだ。
機械化攻撃部隊であっても、実は『整備兵』も何人かは居るはず。それは山岸少尉も判っている。機械の修理をする方が得意で、『殺しの方はちょっと』と言う者も居るだろう。
今更だが、いちいち『アンケート』を取ったりはしない。
だから『援護射撃』に立候補する者が続出した。
顔を見合わせて『どうぞどうぞ』とはならないらしい。『俺が俺が』になってしまっている。これには山岸少尉も苦笑いだ。
覚えておいた方が良い。戦場に『安全地帯』なんてものが存在しないことを。そして自覚した瞬間に『死の危険』が迫ることも。
「じゃぁお前だ」「はいっ! 頑張ります!」
指名された者は実に嬉しそう。銃の残弾を確認するようにガチャガチャ音がしているが、身震いだろうか。
数秒の判断だが、山岸少尉は苦笑いである。
もしかしたら『死の選別』をしたのかもしれない。明日ある若者に、上官として『お前はここで死ね』と宣言したに等しい。
実際に戦死してしまったならば、確かにそう。
「良し。じゃぁお前らは、一緒に行くぞ」「はい」「はい」「はい」
しかし気にしてなんていられない。上官とはそういうもの。『何人死んだか』なんて、後で数えれば済む話だ。
戦死する人数をいちいち気にしていたら、職業軍人なんてやっていられない。皆『任務遂行』のために、命を賭しているのだ。
「お前ら、少尉殿の盾になれよ?」「そうだぞ。絶対守れよ?」
たなっちときよピコには『この後の展開』が、読めているのだろうか。急遽同行することになった兵士三名に『圧』を掛けている。
肩とケツをバシンバシンと叩きながら。満面の笑顔で。
と思ったら、急に怖い顔になった。目も鋭い。
どうやら普段は『ヘラヘラ』しているが、たなっちときよピコもそれなりには『修羅場』を潜り抜けて来たのか、『戦死の目』いや、それは閉じてしまっているから訂正。『戦士の目』をしている。
兎に角六人は、先へ行ってしまったロボ戦隊の後を追う。
階段を降りて一時停止。通りを確認するのは、たなっちときよピコだ。上下左右の安全を素早く確認。目で『行け』と言われた兵士の男が先陣を切って、廃墟から続々と飛び出して行く。
一列縦隊で走り始めた。最後にたなっち、きよピコ順で続く。
「もう『安全地帯』から出ちゃってるからなっ」「はい」「はい」
山岸少尉の注意喚起に呼応して、前を行く二人から返事あり。
「だから気を付けろよっ」「はい」「はい」「はい」
今度は後ろの男からも返事が。確かに足元には、『気を付けなければならない物』が沢山転がっている。だから『廃墟』を、名残惜し気に振り返っている場合ではない。小さな溜息が聞こえた。
「本当に、判ってるのかなぁ」「さぁ」
最後尾を守るたなっちときよピコは、首を傾げるばかりだ。今の『安全地帯』とは、どう考えても『フリーモード』絡みなのだが。




