アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十七)
懐かしい機体の音に期待を募らせる。冗談は上段からにして。
左翼より、物凄い勢いで突入して来るのが見えた。一瞬で『おかしい』と気が付く。三人は物陰に隠れた。
「ライトを消して止まれ」
無線で指示を出す。後ろから来ているであろう、田中軍曹が運転する装甲車へ。巻き込まれたらひとたまりもない。直ぐに返事が。
『了解。徒歩で何人か追い付きましたけど』
どうやら間に合った。三人は廃墟の二階へと駆け上がっている。
瞬時に東西と南の三方について『クリア確認』を実施。その後は南の窓から前方をチラリと覗き見た。
「ここ何処だ?」「何か学校っぽい所が見えますね」「良し」
無線を手にした山岸少尉が、きよピコに位置を聞くと頷く。
「徒歩は学校手前の廃墟より前に出るな。廃墟の二階へ上がれ」
『徒歩で廃墟の二階へ上がる。了解。こちらは蔵前橋通り手前』
最初は頷いていた山岸少尉だが、現状の位置を聞いて渋い顔だ。
「軍曹は一旦そこで待機。コントロールはこっちで。あれ?」
キョロキョロと見回して、肝心のコンソールがない。
三人で黙ったまま『持ってる?』『いいや?』『少尉のは?』『無いけど? どっちか持って来ていると思っていた』『うぞっ。俺もそう思ってました』『奇遇ですね。俺もです』と語り合う。
当たり前だ。全員、装甲車に置いて来たではないか。『忘れた』とは言わせない。思い出して、『あはは』と全員で笑い合う。
が『パチン!』『パチン!』と頭を引っ叩いて、『ダメだろう』を先にアピールしてからの、無線のスイッチをオンにする。
「誰かにコンソールを一つ持たせてくれ。廃墟の二階に居る」
『了解しました。おいっ! 一人山岸少尉にお使いだっ!』
田中軍曹の叫び声が聞こえて来て、直後に無線が切れた。
「酷いっすよぉ」「少尉殿だって、持ってないじゃないですかぁ」
「俺は身軽じゃないといけないから、仕方なく置いて来たんだ!」
はい勝ち。『それっぽいこと』を言って、相手が黙れば『そうだった』と既成事実の出来上がりだ。文句は言わせない。
それにしても、誰もコンソールを持って来ていないとは。
確かに戦闘に入ったら、『隊長機の操作パネル』でもある程度のことが出来る。小さなタッチパネルで操作することになるのだが。
機体の両サイドに『掴まる場所』がある。
その付近にある『蓋』をパカンと開けると現れるのが、各種設定を行うことが出来る画面だ。メンテナンスもそこで行う。
キーボードを表示させて、細かいコマンドを直接入力することも出来るが、それよりは『幾つかの作戦』を事前に登録しておいた方が簡単だ。当然、三人ともそうしている。
だから重たいコンソールをわざわざ持ち歩くより、手榴弾の一つでも持って来た方が良いと思うのは理解できる。
「しかし、『隊長機』まで自走させちゃう奴が、何処にいる?」
「ここにぃ」「ここにぃ」「ここにいたかぁ」
三人は楽しそうに指で差し合っているが、遠くからはもう『反撃の狼煙』が立ち上っている。随分と余裕があるご様子だ。




