アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十六)
全体として『もぬけの殻』だ。拍子抜けである。
どう見ても『ここに陣地がありました。イエーイ』な形跡はあるのだが、人っ子一人おらず跡形も無い。
それでいて『死体』もないのが不気味である。
さっきまで調和型無人飛行体もブンブン飛んでいて、それなりの『成果』を上げたようだが。主に『上の方』で。
崩れ落ちそうな廃墟をわざわざ登ってまで、『成果』を拝みに行く必要もないだろう。時間も線香も有限なのだ。
「誰も居ませんねぇ」「油断するなよ?」「でも少尉殿ぉ、えっ」
山岸少尉の両脇を固め、周りを警戒しながら進んでいたのは間違いない。突然、右翼担当であるたなっちの肩を、山岸少尉がグイッと押さえて引き戻した。左翼担当のきよピコも止まる。
「静かに」「何ですか?」「シィィッ!」
周りは機械軍団の走行音と、時折響く発砲音で喧しい。
人の声が多少響いた所で、誰の迷惑にもなるまい。逆に言うと、黙った所で静かにはならないのだ。やはり『走行音』が響くのみ。
「今のは『桃太郎』じゃないか?」「えっ?」「何ですって?」
たなっちときよピコは、首を傾げて不思議そうに見つめ合う。
山岸少尉は何を言っている? 『頭』がおかしくなってしまったのだろうか。いや、この場合は『耳』と言った方が?
「ほら、前にロストした『七号機』だよ。忘れたのかぁ?」
どうやら自動警備一五型に『命名』していたのは、きよピコだけではなかったようだ。しかしそれが、どうして『桃太郎』なのかは説明している暇はない。
「えっ? もしかして『ヒャッハー肉を出せぇ』に入れたはずの?」
「そそそ。何だ『肉出せ』って付けたの、きよピコだったのか」
思い出して、嬉しそうに人差し指を振っているが苦笑いだ。
「いや『ヒャッハー肉を出せぇ』ですよ。ダメでした?」
細かい所を否定してくる。苦笑いの原因は、そこじゃないのだが。
「判ってるよぉ。いや『報告書』に書いたのを思い出したよぉ」
吹き出しそうに笑ってはいるが、実は大佐から相当怒られた。
そもそも提出したのは『始末書』である。しかし、たなっちときよピコの二人は、絶対『別の何か』と勘違いしそうなので、あえて変えている。状況の説明が長くなりそうだし。
「じゃぁ、俺が付けた『ヒャッハー肉を出せぇ』は?」
対抗して割り込んで来たのは、やっぱりたなっちだ。
「あぁ、それも書いたよぉ」
思い出した。危うく『始末書の始末書』を、書くはめになる所だった。大佐が上層部へ提出する前に、見え消しで直してくれたのだ。
「やったぁ。俺の『部隊名』も帝国陸軍の記録に残ったぜぇ」
保存期間を過ぎたら、堂々の廃棄処分だろうけどな。
「いや、だから報告書にも書いた『桃太郎』の音がするべぇ?」
もう一度耳を澄ませる。直ぐ横を、最後の一機である『留吉』が通り過ぎた。段々と静かになって行くはずなのに、大きくなって来る音あり。三人は顔を見合わせて、嬉しそうに頷いたではないか。
ちなみに『桃太郎』の所にも、見え消しで修正が加えられていたのだが、その事実を山岸少尉は知らない。




