アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十四)
いつの間にか『大部隊』になっていた。
路地裏に入り込んでいた機体までが、山岸少尉以下の指揮下に入ったことで表通りに出て来る。また一機、また一機と出て来て合流。
見事な三列縦隊となって、堂々と行進を始めていた。壮観である。
その数、実に六十機超。陸軍全体の四分の一以上を掌握していた。
中には作戦開始時点で『本部護衛任務』に就くはずだった機体も含まれている。肩に本部直営を示す、丸印に『本』の文字がキラリ。
だから作戦では、『戦線』を維持して押し出す予定だった。
そんな機械軍団が突然『散った』かと思ったら、今度は逆に『密集』し始めたのだ。恐ろしい。
加えて、厚みを増した一団が進軍を開始する。今度は『塊』となって向かって来るのだから、恐ろしさは増すばかりだ。
全く。『矢面に立つ側』は、たまったものじゃない。
「隊長! 集団が動き始めましたっ!」『ドーン!』「来たかっ!」
多分報告が無くても、バリケードに衝突した音がこれだけ響いたのだ。『何か』が起きていることは明らかだ。
レッド・ゼロ側に、自ら構築したバリケードを、自ら破壊する理由も能力もない。全部陸軍の奴らに決まっている。
『ゴゴゴゴゴッ』『キィィィィン』『危ないぞ!』『ガリガリガリ』
拠点としている廃墟ビルを擦る音。唸る機械音。
『退避ぃぃ』『タタタタッ』『うわぁぁぁ』『ボーンッ!』
そんな『喧騒』に加えて、聞いたこともない火器類の音が響く。
明らかにこちらの『装備一覧』にはない代物だ。合間に響くのは、聞いたことのある声による、断末魔となった叫び声。
最後の叫び声だけは、直ぐに静かになった。流石は断末魔。
では『それ以外の音』はどうか。耳を塞ぎながら一応は澄ましてみる。現場を見ることなんて不可能だと、誰もが思っていた。
ほれ見ろ。どうもこうもない。益々大きくなって行くばかりだ。
「退避ぃぃぃッ! 非常口から地下に入れっ! 急げっ!」
部下に下命する。指揮系統が生きている内に、『撤退』を指示しておかなければ。このまま指揮官が死んでしまっては、無理な戦闘命令が『発令しっ放し』になってしまう。それは避けたい。
『ドーン!』『ミシミシミシッ』『ガラーン』『パラパラッ』
今度は大爆発か。屋上すら『安全』ではなくなってしまった。
何やら『爆発物』が、窓から放り投げられたのだろう。上の方で『大きな爆発音』がしたと思ったらビルが揺れる。
空襲のような大きな爆発ではない。手榴弾か、もうちょっと強力な火器による攻撃。落ちて来たコンクリート片も小さい欠片だ。
それでも『鉄骨』の一部が崩壊して、落下したのだろう。
元々廃墟だったのだ。それを勝手に『拠点』にしておいて、崩れて下敷きになったとしても、文句の一つだって言えやしない。
陸軍もそんなことは承知の助なのだろう。遠慮なんて、これぽっちもありゃしない。
『タタタッ! ヒャッハーッ!』『ほぉれ、もう一つ食らえぇっ!』
今度は明らかに『人』の声が。しかしそれは爆音によって掻き消された。確認のしようもない。
「イカれた奴がいるなぁ」「あぁ。行くぞっ」「判った」
残念ながら逃げ出すしかない。確認は暫く後だ。




