アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十三)
コンソールに映し出されている『赤い点』が、次々と『緑の点』に変わっていく。四人掛かりで付近の自動警備一五型を配下に置いた証拠だ。すると、山岸少尉が振り返った。
「じゃぁ行くかっ!」「了解です!」「行きましょう!」
呼び掛けに応じて、後ろの二人も直ぐにコンソールを閉じた。
武装を確認して、外へ飛び出す支度は万全だ。
「二人共、今日は『鉄兜』被って行けよ?」
田中軍曹の声。軍曹が二人に、直接指示を出すとは珍しい。
「えぇ。まじすかぁ?」「そうですよぉ。軍曹じゃあるまいしぃ」
不満気である。田中軍曹は常に鉄兜を着用しているが、たなっちときよピコは『仮入隊』のときから未使用である。
昔からそう。大体足立区で、今時『ヘルメット』なんて流行していないのだ。日が暮れたら『ノーヘル可』の噂まである。
「ダメだ。今日は『実弾』が飛んで来るから被って置け」
「えぇぇ。そんなぁ」「少尉殿までぇ」
ニッコリ笑って釘を刺される。しかし、おらが大将の山岸少尉にまで言われてしまっては、流石に従わざるを得ない。
「縄張りではオッケーだったのになぁ」「そうですよぉ」
普段の『狩場』である、台東区や荒川区のことだ。もちろん『アンダーグラウンド』での話であって、人工地盤上は地理も判らぬ。
人工地盤上は、例え『ヘルメット』を装着していたとしても、そもそも『バイクでの走行禁止』である。
「良いぞ。良く似合っている」「一丁前の『軍人』に見えるよ」
今日は『肩パット』も無くて、何だか肩が『スースー』していると思っていた。靴だっていつもの『シークレットブーツ』ではない。
それが、ただの『迷彩服』に身を包み、更に『鉄兜』も被れば、もう立派な『帝国陸軍兵士』の出来上がりだ。
両肩には二挺の『89式』を背負っている。だからポケットは『弾倉』でパンパンだ。どんだけ乱射するつもりなのか。
その上、腰のベルトには、体をグルリと一周回る程の『手榴弾』をぶら下げている。完全なる『戦闘モード』だ。一分の隙もない。
「後は、コレですかねぇ?」「それは一旦、置いて行かねぇか?」
座席の後ろから取り出したのは、ロケットランチャーである。
弾も十分にちょろまかして来た。書類は偽物だが、山岸少尉のサインだけは本物に決まっている。全部、田中軍曹が調達した。
「そうだな。先ずは『こいつ等』を、有効活用しようではないか」
意味深な言い方だ。それに悪そうな笑顔。たなっちときよピコも、つられて笑顔になると言うものだ。
これだから山岸少尉には逆らえない。誰が何と言おうと、最高の司令官で決まりだ。異論は認めない。
どうせ同じ『戦争』をするのだったら、『明るく』『楽しく』『元気良く』。略して『あ・た・ま』を使った戦争をした方が、良いに決まっているではないか。
「俺に付いて来いっ!」「GOGOGO!」「ラァリホーッ!」
田中軍曹を装甲車に残し、三人は暗闇に飛び出す。




