アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十二)
最前線に躍り出ていた。とは言っても、塹壕が掘られている訳ではないので、良くは判らない。薄暗いのもある。
しかし目の前には中央からのコントロールを失って、血を求めて徘徊する自動警備一五型の姿があった。
これ以上近付くのは危険だ。一旦装甲車を停止させた。
「無線の感度良好です。ここからでも捕捉可能かと」
田中軍曹からの報告。確かに、ダッシュボードに載せてあった『ビーコン』が、赤から緑に変わった。全員が色めき出す。
「よぉし。じゃぁ、始めるぞっ! 競争だぁ!」
パッと振り返った山岸少尉。戦況とは違い、実に楽しそうだ。
「待ってましたぁ!」『カチャカチャカチャ。タンッ!』
「今度は少尉殿に、負けませんよ?」『カチャカチャカチャ』
たなっちときよピコは、とても待ち切れなかったのだろう。既にコンソールを開いていた。そして打ち込みを始めているではないか。
そんな姿を見てしまっては、山岸少尉も負けてはいられない。
挑戦状に返事をすることもなく、スッと前を向いてしまった。
「早い者勝ちだぁ!」『カチャカチャカチャカチャカチャ』
早速聞こえて来たのは、短い一言とキーボードを叩く音のみ。
「皆、落ち着いて行きましょう? ねっ?」『カチャカチャカチャ』
そう言う田中軍曹だって、もうキーボードを叩き始めている。
無線が飛び始めると、ビーコンが点滅し始める。
データ通信が始まっている証拠だ。一応、陸軍である彼らにとって、今の行為は『自軍の再編成』をしているに過ぎない。
今は『フリーモード』で稼働している真っ最中だ。探し求めた熱源に対し、片っ端から銃を乱射している。
そんな勝手気ままに、バラバラで動き回るだけの自動警備一五型に接続し、配下に入るように指示。拒否権のない『リーダー選挙プロトコル』を起動するのだ。
当然、各人が配下に治める『隊長機』が、優先的に『新隊長』として再選されるように調整済。選挙が常に『公平』とは限らないのが世の常だ。それは残念ながら機械でも一緒。
「おぉ? こいつ、調和型無人飛行体十機あるぅ」
ゲットした機体の状態を確認して、山岸少尉が思わず声を上げる。
「俺のも九機付いてキタァ!」「何だよ。ズルいじゃねぇかよぉ」
きよピコが嬉しそうにコンソールを指さしたのを見て、隣のたなっちがそれを覗き込んだ。確かに『OVER』の点滅表示と共に、『九機』と表示されているではないか。
「嘘。こいつ、十五機も抱えてやがる……。荒れてんなぁ」
田中軍曹も驚きの声を上げていた。しかし嬉しそうではない。
「それは、ちょっと多過ぎなんじゃねぇの?」「ですよねぇ」
むしろ山岸少尉に、慰められてしまったではないか。
心配するのも無理はない。定数八機の所に倍近くの数が管理下にある。それを手作業でやり繰りしないといけないのだ。
どうして『そんな仕様』になっているのかは知らないが、とにかく数が増え過ぎるのも考えようだ。
「突っ込ませちゃえば良いんじゃないですかぁ?」「そうだなぁ」
気軽に提案しているが、この世界に『特攻』なんて用語はない。




