アンダーグラウンド掃討作戦(三百六十一)
「でだ。命中しても、爆発しなかったらどうするの?」
「そりゃお前、もう一度だろう」
勝手に答えた奴がいる。空中で軽く右手を振って『投てき』の仕草。いや、あんたの体格では、そんな簡単には投げられまい。
「いやいや、そういう場合は放置一択で」
苦笑いで黒星が正しい対処を示す。聞いた奴も、勝手に答えた奴も驚いて振り返った。
「えっ、そうなの? 一発勝負なの?」「背中を外しても?」
矢継ぎ早に聞いて来るが、黒星は一度ずつ何度も頷く。
「元々『自爆用』なんで」「何で?」「えっ?」「いてっ」
不覚にも話の腰を折った奴がいて、そいつは赤星からゲンコツを食らう。直ぐに黙った。
目で『続きを話せ』と急かされるが、黒星はその説明に困る。
「万が一の場合、例えば『鹵獲された場合』とかね」「あぁ」
「内部の機密情報を壊すのが目的でして」「そういう目的かぁ」
頷きながら黒星はタブレットにスラスラと書き始める。
①Cー4による爆破 ②毒ガスで回路焼き ③電気ショック
「俺が知っているのはこんなもんで。だけど①は量が狂ってる」
苦笑いだ。どうせ本部長の発案に決まっている。そして『念のため』と増量したのが高田部長だろう。
「こんなの造った方も、『狂ってる』よなぁ?」「あぁ」
ボソッと零れ落ちた感想に、隣の男が同意した。苦笑いだ。
「全く。冗談じゃねぇよ」「外れたら『ビリビリッ』てかぁ?」
「まさかそれで、死にはしねぇよなぁ?」「判んねぇぞぉ?」
「勘弁してくれよぉ」「俺はまだ『毒ガス』がマシだと思うわ」
鼻を摘まんでいる。和やかなご感想の後に、一同乾いた笑いだ。
「やっぱりそう思うかぁ? 思うよなぁ。マジ狂ってるよなぁ」
黒星は嬉しそうに笑いながら、会話の中へと混ざり込む。
開発者の一人として冷静に見ても、『あの二人は特別狂っている』と思えるし、皆も同じ思いのようだ。
俺の感覚は『世間の常識』から、全く外れてはいない。一般的。
システム設計をして『原案』を提出したときのことだ。
『保護回路が無い。こういうのを『抜け作』って言うんだよ』
『常識ってもんが抜けてるんだ。正に『間抜け』だなぁ』
皆の前で、二人に叱責されたことを思い出す。凄くムカついた。
「あぁ。思う思う」「こんなの考える奴、頭おかしいわぁ」
タブレットをトントン叩いて、周りを見渡して同意を求める。
嬉しいではないか。だから黒星は、右手を自分の頭の横に持って来ると、『パッ』と花を咲かせる。
「だろぉ? 俺もねぇ、前から『頭噴いてる』って思ってたんだぁ」
満面の笑みを魅せる。すると全員が納得してくれたのか、同じ『満面の笑み』で返してくれたではないか。
嬉しい。まるで『仲間』になった気分だ。出会って直ぐだけど。
「あんた『も』だからなぁ?」「えっ?」「何、とぼけてんのぉ」
「『え』じゃねぇよ」「こんなもん、造りやがってさぁ」「えぇー」
こっちの仲間ではないらしい。黒星は思わず赤星の顔を見た。
「しゃーない。じゃぁお前が『仲間に見本』を示しに行くかっ!」




