アンダーグラウンド掃討作戦(三百五十五)
両手を真上に『ピンッ』と上げたまま歩き続ける。
「歩けっ」「いてっ。止めてぇ」「良いから歩けっ」
見栄も外聞も無く、宮園課長は泣き出してしまっていた。時々ケツを蹴られるが、後ろは怖くて振り返れない。
首の所に来ていたナイフは視界から消えたが、今後ろで『ヒュンヒュン』音がしているのはきっとそのナイフだろう。
音が消えたと思ったら、今度は左右に飛ばしているのか、手で受ける度に『パチン』と革を叩く音がする。
妙に『聞き覚え』があると思っていたのだ。確かに最初、黒い手袋が視界の端に見えていた。間違いない。
その『ナイフ』だが、今まで見たこともないタイプの得物だ。
刃渡りは十寸程の両刃。先っぽは栓抜きを兼ねている。背にはまるでノコギリのようなギザギザが。
もう判るだろう。実物を見たのは初めてだが、絶対に『ヤバい奴』が好んで使うタイプではないか。
NJSの仕様に無い『角』が生えている自動警備一五型が見えている。独自改造か? 保証外になるぞ?
宮園課長は見てはいけないと思いつつ、職業柄どうしても見てしまっていた。
すると向こうも職業柄か、『視線』を感じたのだろう。
「おう、どうしたぁ?」「隊長ぉ。こいつ、殺して良いすかぁ?」
振り返って声を掛けて来たのは、見た目が最悪の男だ。
勿論『宮園課長から見て』の話し。人相が悪いだけで、実際はその通りなだけで間違いない。だからある意味正解。
危険を感じ取る能力だけは『一丁前』と言って良いだろう。
よりによって『後ろの危険人物』より偉い人。
と言うことは、生殺与奪の権利を有する権力者ではないか。人は彼を『レッド・ゼロの五番隊隊長』と呼ぶ。本文表記は赤山だ。
「何だ? 構わないけど『夕飯』にするのかぁ?」
平然とした顔で言ってみせる。その上、お腹を摘まんで来た。
まるで『野生の豚』を生け捕りにして、連れて来たかのような流れ。とても自然な感じだ。肉質を確認し続けている。
おまけに『そろそろ飯の時間だっけか?』とばかりに、時計をチラっと見たではないか。最後に肉を引っ張ってから離した。
「ちょっと『脂肪』多目だなぁ。鍋がギトギトになっちゃうだろぉ」
何の心配か。どうやら『アンダーグラウンド産』にしては、脂肪の乗りが多いと思っているのだろう。『産地偽装』の疑義あり。
「じゃぁ今日は絞めるだけで、一旦『モツ鍋』にしときますぅ?」
ちょっと待て。何が『一旦』なのか、怖いけど教えて欲しい。
しかし赤山は、『赤星の提案』を聞いて考え始めてしまった。
「あぁ、そうしようか。向こうで『血抜き』して来い」
クルリと反転して『後は任せた』とばかりに行ってしまう。
「了解です。肉は『熟成させた方が美味い』って、言いますしね」
こっちも殺る気? 俺、食われちゃうの?
赤山が似合わぬ笑顔を魅せて『よろしく』と手を挙げた瞬間だ。
「俺美味くないっすよっ!」「豚が喋ったっ!」「早く突っ込め!」
まるで『ここまで台本通り』とばかりに再び集まる。趣味が悪い。




