流れ星と子ギツネ
雪がたくさん積もった野原を子キツネのミーちゃんが歩いていました。お母さんギツネと兄弟たちも一緒です。
ちょっと歩くのに疲れたミーちゃんが夜空を見上げたとき、お星さまがひとつピューと流れました。
こんなことは初めてです。
「うわっ」
ミーちゃんが大きな声を出すと、すぐ後ろを歩いていたターちゃんがどうしたのとたずねました。
ターちゃんはミーちゃんよりちょっとだけ早く産まれたお兄ちゃんキツネです。
「お星さまがね、ピューって飛んでったの」
「へぇ、ぼくも見たい」
ターちゃんもお空を見上げましたが、ピューって飛んで行くお星さまは見当たりません。
「今度ピューって飛んで行くお星さまが見えたら絶対教えてね」
ターちゃんが言いました。
「うん、絶対教えるよ」
ミーちゃんが言いました。
ミーちゃんとターちゃんはまた歩き始めました。今日はお母さんギツネや兄弟たちと一緒におばさんギツネの巣穴に遊びに行くのです。おばさんキツネの巣穴はまだまだ先です。たくさん歩かないといけません。
ミーちゃんとターちゃんは時々立ち止まってお空を見上げましたが、飛んで行くお星さまは見つかりません。
あんまり何度も立ち止まってお空を見上げていたので、ミーちゃんとターちゃんは他の兄弟ギツネやお母さんギツネからちょっと遅れてしまいました。
先頭を歩いているお母さんギツネが振り返って言いました。
「ミーちゃん、ターちゃん。みんなから遅れてますよ」
「あのね、お母さん。お星さまがピューと飛んでったんだよ」
「そうなんだって、お母さん!」
お母さんギツネも夜空を見上げました。他の兄弟ギツネもお空を見上げました。でも飛んで行くお星さまはありません。
「飛んで行くお星さまなんてないじゃない。本当に見たのミーちゃん?」
一番上のお姉さんのフーちゃんがいいました。
「さっきは本当にお星さまが飛んでったんだけどな……」
ミーちゃんは困ってしまいました。
「そうだ、もしかしたら、お山のてっぺんからだったらお空が近いし、お星さまがピューって飛んで行くのが見れるかも」
ミーちゃんは、今度はみんなの先頭に立って進みました。お山のてっぺんまでは登り坂なので歩くのは大変です。でも、ミーちゃんはぜんぜん気になりませんでした。
お山のてっぺんに着くと、みんなで星空を見上げました。今日は雲ひとつないいいお天気なので、お星さまが良く見えます。でも、ピューって飛んで行くお星さまはありませんでした。
ミーちゃんは困ってしまいました。ミーちゃんは、確かに見たんですけど、また見たい、みんなにも見せてあげたいと思っても見せてあげられないのです。
「ピューって飛んで行くお星さま、見えないねぇ、ミーちゃん」
兄弟達もがっかりしています。ミーちゃんはお母さんギツネにききました。
「どうしようお母さん」
「そうね。じっとここで待っていたらピューと飛んで行くお星さまが見えるかも知れないけど、外は寒いですからね、早くおばさんのお家に行きましょう」
と、お母さんギツネが言いました。
キツネたちはまたお母さんギツネを先頭に歩き始めました。ミーちゃんは今度は一番後ろからとぼとぼとついて行きました。
お山に登る時は見上げながら歩くので、お空が良く見えましたが、お山から下りる時は足下を見ないといけないので、あまりお空を見ることができません。そのかわりにミーちゃんはなんでピューって飛んで行くお星さまが見ることができたのか考えながら歩きました。
お星さまがピューって飛んで行く時間とかあるのかな?それともお星さまがピューって飛んで行く方向とかあるのかな?お星さまってピューって飛んで行って、どこに行くんだろう?
もしかしたら大きな声で呼んだらお星さまがピューって飛んで来たりするかな?試してみたいけど……今大きな声とか出したらお母さんに怒られるだろうな。
色々考えて歩いている内にもうおばさんギツネの巣穴に着きました。おばさんギツネは巣穴の外でミーちゃん達を待っていました。
ミーちゃん達はおばさんギツネにこんばんは、とあいさつしました。おばさんギツネもこんばんはと言いました。
「遠い所から良く来たわね。寒かったでしょ?」
おばさんギツネはニコニコ笑いながら言いました。
「巣穴の中は暖かいわよ、さあどうぞ」
みんなが巣穴に入ろうとした時、ふとミーちゃんは後ろを振り返りました。
「うわぁ!」
ミーちゃんの声に驚いてみんな後ろを振り返り返ると、たくさんのお星さまが次々とピューっと飛んで行くのが見えました。
「すごい、すごい!本当にお星さまが飛んでるよ!」
「うわぁ!きれいだねぇ!」
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とぉー
ミーちゃん達はピューっと飛んで行くお星さまを数えてみましたが、数えるのが追い付かないほどたくさんのお星さまが飛んで行きました。
でも、しばらくするともうピューって飛んで行くお星さまはなくなりました。
「もう、お星さまは飛ばないのかな?」
「そうかも。きっと今日の分は飛んじゃったんだよ」
ミーちゃん達はお星さまがピューって飛ぶことについて色々と考えてみましたが、分かりませんでした。
「さあ、さあ、もう夜も遅いからお家に入りましょう。たくさん歩いたからお腹も空いたでしょう?」
ずっとお星さまのことを考えていたミーちゃん達はお腹のことを忘れていました。
「そうね、私もお腹がペコペコよ」
お母さんギツネも言いました。
おばさんギツネのお家に入る前にミーちゃんはもう一度夜空を見上げてみました。ピューって飛んで行くお星さまはありませんでした。
「また見れたらいいな」
ミーちゃんはそれからも時々お空のお星さまを見上げてみることにしました。