~その壱~ 「社会性を求めるな、わが道を行くのみ」
みんな走る。
私の横を風を切って走り抜ける。 点滅する緑の信号機、指示器を点滅させ抜けるは原付。
ヘルメットに光を携え誇らしげに唸るエンジンを全力でたたき起こす齢40代の女性。
その後ろを急ぎ足で赤色信号機を嗤った大学生。
日に照らされた私はあくびをしながら
(きっと邪知暴虐な王に大切な友を人質に取られたのだ)
呑気に考える。
そんな私を差し置いて今日も回るは現代都市の人々、燃料式機械。
そして時計は冷酷に9時を指し、遠くで鳴るは私の始業のチャイム。
(本日も晴れ、時々叱咤の雨)
と小ばかにしながら河原をぶらつこうと決意して私は信号を渡った。
人々が憂鬱に街を駆けていく、それを鳥と眺める私はきっと社会にあってないんだなと笑う。
鳥は鳴く、なんだ君はと問いかけても羽音しか返さない。
なんて失礼な奴なんだと思うが、鳥に求めるのもおかしいなと一人で納得し川の音に集中する。
川の流れを見ているとよくできたCG作品のように思える。この世界はきっと機械による演算の中で
生まれたシミュレーターなのだろうかと考えるほど美しい流動性を持っている。
一定のリズムで同じ、流れを時に激しく、穏やかに流れゆくその姿
水は命の源であると理科で習った。その意味を理解することができたように思える。
(今日は帰ろうか...いや学校までは行くか)
きっと今頃欠席したもののことで笑っているのだと勝手な決めつけを行い学校までの坂を歩く。
歩く、誰も待ってやしない坂を上がる。見えてくるのは、暴虐の王でも、磔の親友でもない。
学問の自由を謳う、学生の監視を行うパノプティコンだ。そこでは話したことなどほとんどない
生徒たちがほかの生徒をみて自らを律せんと意気やよし、体は全く言うことを聞かぬといった不具合を
持っている。
みな何かに追い立てられるように「あれをしなきゃ!」「これをしなければ!」と口々に
漏らしている。漏らしすぎて食堂の床が抜けてしまうのではないかとひやひやする。
学食でいつも買うのは、500円の丼もの。丼はいい、混沌としたものを見事にうまいものへと変えるのだ。
ある意味化学かもしれない。
温泉卵をつぶし、少し混ぜながら口へ運ぶ。醤油をベースにしたタレが口の中を駆けていく。
(待ってくれ、そんな早くては味わえない。まさかお前も「メロスら」なのか)
味わって食べたいがうますぎるが故にペロリと食べてしまうのだ。500円の重みを知りながら
食堂を後にする。
(学生食堂はいい、しかし食材までもが学生になっているのは如何せん、腑に落ちない)
私は学生や社会人を「メロスら」と呼ぶことにした。人生を人質に、人生に脅されているのだ。
訳わからん、人生を良くしようと人生に振り回されるのはまるで恋愛ゲームの主人公のようだな。
ふっふふと肩を揺らして笑いながら、学校を後にする。
もちろん単位は後に落とすのだ。