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all of you   作者: ある
2/2

scene1 [再開]

東京のあるスタジオ。

春クールと夏クールの間に放送されるスペシャルドラマの撮影をしていた。

ディレクターは以前から何度も組んだことのある天井友香(あまい ゆうか)

彼女とは年も近く、またそのサバサバした性格が気に入って仲良くしている。


「OK。鈴原(すずはら)、チェックは?」

「えぇ」


画角から外れて、私はモニター前へ。

今の演技を確認する。


「良いんじゃない?」

「そう?監督が良ければ」

「何?不満?」

「いや、よくわかんない」

「なんじゃそりゃ」


笑いを交えて、真剣な仕事。

この仕事は決して一人ではできない。


「次のカットってバミリなしですか?」

台本を片手にやってきたのは、今人気の若手女優・戸田(とだ)

「見切れるから、なし」

「え~」

天井に楯突く、実力派。

「え~、じゃなーい。自分で確認しといてよ?」


そんないつもの撮影。

そんないつもの風景。


今日は、そんないつもとは違った。



「こんにちは」


撮影所の重い扉が開いて。

聞き覚えのある声が聞こえて。


私は、ゆっくりと振り返った。


目が合って。


信じられなかった。


そこに立っていた、彼女を。



「おかえり~」

天井が手をバタバタさせながら駆け寄る。


私は茫然自失。

何も動くことが出来なくて。


だって・・・そこにいたのは・・・


「紹介するわね。小津絵以ちゃん。・・・て、鈴原は何度も共演してるか」


そうよ。

天井、あなたのドラマでも共演した。

映画でも共演した。

それに・・・・


「お久しぶりです。」

「・・・」


他人行儀な挨拶。

思った以上にショックだった。


いや、それよりも・・・

「何で彼女がここに?行方不明じゃなかったの?」


絵以は数年前、突然いなくなった。

女優業を引退したとか、死亡説とか出回って。

私の前からも、姿を消した。

何も言わずに。


「ディレクター陣の何人かには連絡あったのよ。一年前くらいかな、秘密で」


なに、それ・・・


「で、今回はこのドラマでちょっとお手伝いしてもらおうと」

「手伝いって・・・出演?」

「いや、演出」

「え、演出!?」


もはやわけがわからない。

女優の彼女が演出?

当の本人は私と天井のやり取りをただ眺めているだけ。


・・・掴みかかって、殴ってやりたかった。


「ねぇ、ちょうど昼休憩入るし二人でご飯でも食べてきたら?」

天井の計らいも、今は余計なお世話。

だけど気にならずにはいられない。

絵以がこの数年、どこで何をしていたのか。


「友香、私何時までに戻ればいい?」

「そうね、13時。台本は?」

「飛行機の中で覚えてきた」

「さっすがぁ~」


天井と絵以のやり取りは、ただの昔の仕事仲間という雰囲気ではなくて。

それも、気に入らなかった。


不快な気分のまま、距離を計りながら

私は絵以と昼食に出た。



撮影所近くのお蕎麦屋さん。

昔は絵以と二人でよく通っていた。

向かい合わせで座り、頼んだものは揃って盛り。

ただし、私はかつ丼のセットで。


「相変わらず肉、好きなんですね」


絵以の一言が、いちいち癇に障る。

蕎麦を待っている間、溜めこんだ質問をぶつけた。


「どこに行ってたの?」

一瞬戸惑い、それでも表情は変わらず。

「色々。」

「色々って?」

「ロサンゼルス、フランス、イタリア、イギリス・・・」

「何しに?」

「勉強しに、演出の」


ハリウッド、カンヌ、ベネチア・・・

映画のメッカばかり・・・


「何で・・・なんで連絡もなく・・・」


ちらりと、絵以が観たのは店内に置かれた週刊誌。

表紙には

『鈴原栄香・周防信二郎(すおう しんじろう)、結婚か?』の大きな見出し。


あぁ・・・


「結婚秒読みだって」

「そ、それは・・・そんな話も出てはいるけど別にまだ・・・」


何を弁解しているんだろう。

絵以に言い訳する必要なんてないのに。

だから、やり返したくて。


「・・・そっちこそ。天井とどういう関係?付き合ってるんじゃないの?」

「・・・一年前に・・・一度日本に戻ってきて・・・その時から・・・」


弁解して欲しかった。

違って欲しかった。

何を期待していたんだろう。


「何でその時、連絡くれなかったの」

「だって栄香、周防さんと付き合ってたし今更……」


無意識に、手が絵以の手を握っていた。


だけど

「……縛るわけにはいかないでしょう?」

そう、絵以は目を反らした。



「はい、盛りとかつ丼セット」


パッと、離れる。


誰も知らない二人の関係。


そう。

私たちはあの頃、確かに恋人同士だった。

私たちはあの頃、確かに愛し合っていた。


味がわからない蕎麦を食べながら、少し沈黙して。


『あの頃』の約束を

私は口にした。

「…賭けを…覚えてる?」

「え?」

「私はあの時からずっと―」


店の戸が開いて

「小津?」

よく知った顔が入ってきた。

間の悪いことに、信二郎だ。

「お前もここやったんか」

「え…えぇ…」

「それより小津、久しぶり」

「お久しぶりです」

「何、また復帰すんの?」

「そうだけど、役者じゃなく監督で……」

「カントク!?」


よく喋る男。

絵以と彼は共演経験がある。

わりと仲もよかったらしい。

だけど、今はいて欲しくない。

すると

「そろそろスタジオ戻る。周防さん、またね」

と、そそくさと出ていってしまった。


「…なんつーか、変わってねぇなぁ」


信二郎がそう言った。


変わってない?

何が?


絵以は、

もう

私を好きじゃないのに…


カツ丼まで、食べられそうにはなかった。

様子を見つつ投稿していきます。

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