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最優秀助演女優賞は『Wonder』・小津絵以さん!」
拍手に湧いたその年の東都アカデミー賞。
それは二人にとって特別な日だった。
「残念だったね・・・主演女優賞」
会場となったホテルの一室で、絵以と栄香は二人だけの打ち上げをしていた。
柳場監督の『Wonder』で共演し、今回主演と助演で二人揃ってノミネート。
しかし、自分だけが最優秀賞を獲ったことに少し後ろめたさがあったのか、
絵以はソファの栄香にシャンパンを渡しながらそう呟いた。
栄香本人は特に気にする事もなく、それを受け取ると軽く挙げて
「仕方ないわ。今回は相手が悪かった」
と、微笑んだ。
「そんな・・・演出がもっと栄香さんに合ってれば・・・」
監督と演者、それぞれのカラーや空気や呼吸が合えば合うほど、演者は活きる。
諦めきれないのは絵以の方で。
栄香はそんな絵以を優しい顔でなだめる。
「今日は絵以ちゃんのお祝い。ね?おめでとう」
軽くグラスを当てて、グラスを鳴らす。
「・・・・」
シュワシュワと小さな音がグラスの中で弾ける。
「ねぇ・・・賭けを覚えてる?」
絵以は栄香の隣に座りながら尋ねる。
「ああ、獲れなかったら獲った方の言う事を何でも聞くってやつ?」
そう。
二人はクリスマスに勢いでそんな約束をしたのだ。
栄香は苦笑いした。
敗者として、それを受け入れなければならないから。
「なに?ご飯?それとも何か欲しいものとかーーー」
「私のものになって」
絵以の言葉は、栄香をあまり驚かせはしなかった。
「・・・それじゃ、私が勝った時と同じ」
「・・・賭けの意味、なかったじゃん・・・」
栄香の全てが、絵以のものになった日。
それが、10年前の冬だった。