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第四話 巫女の盾 5 彼女たちの到着

 森の中で、俺は目を覚ました。


「……エリス?」


「ああ、気がついたか。トモアどの、追っ手はない。安心して休んでくれていい」


「世話をかけた、すまない」


 あわてて起き上がろうとしたのだが、肩をつかまれそのまま強引に、彼女のひざの上に頭を戻された。


「あやまる必要はない。へまをしたのは私だ。ならこれは、お互いさまというやつだろう?」


「そうかな?」


「ああ、そうだとも。今日はここで休むことにする。このまま治療は続けるから、朝には君も動けるようになっているさ」


 エリスの手が俺の胸の傷口に置かれた。優しい光を灯していた。


「俺はなんて、……役立たずだ」

「それは侮辱だ。君に命を助けられた私に対する」

「す、すいません」

「だから、あやまらなくていい! ……ふんっ」


 そのまま森の中で夜が明けるのを待って、俺たちは村に戻った。


 あったことをそのまま村長に報告する。敵が待ち伏せていたこと、やられたこと。敵の要求を飲み、大聖堂にいる巫女へ手紙送ること。


 報告を終えて村役場をあとにした俺は、外で一人たそがれていた。


「どうした? そんな落ち込んだ顔をして」


 エリスが声をかけてきた。


「けっきょく、奴らの狙い通りだ。危険のただ中にアリーシャたちを呼ぶことになるなんてな」


「どこにいるかは問題ではない、巫女と盾は共にあるのが普通のことなんだ」


「そうかな。……ん?」


 ぞろぞろと現れる村人たち。

 あっという間に、俺たちは周りをぐるりと囲まれてしまった。


「これはいったいどういうことですか? カダラムどの」


 その中の一人、村長にエリスは問いただした。


「その後、我々も話し合いを行いました。その結果、巫女さまと聖女さまがこのシニアン村に現れるまで、盾殿には保険になってもらうことになりました」


「保険だと? どういうことだ」


「盾殿の身柄を拘束させていただきます。この村でそれが可能な施設は限られるので牢に入ってもらうことになりますが、最大限の配慮はさせていただきます」


「そんな馬鹿な! 鳩を飛ばして文は出しただろう。数日のうちに、巫女はかならず来られる。内容も隠さず見せて確認もさせたはずだ」


「なぜ、ダンダリア党のことを知らせなかった」


 周りを囲んでいた中の一人が、批判的な口調で問いただしてきた。


 たしかに彼の言うとおり、手紙にはダンダリア党のことを書かれていない。当初の予定どおり危険な状態の封印が見つかったので調査のため、という名目で呼び出した。


「それも説明しただろう、教会はダンダリア党を警戒している。彼らの存在を知らせると巫女を呼ぶのが難しくなる」


「それでは信用することができない」

「なんだと?」


「彼を目を放した隙にいなくなってしまうのではないか、そう不安になっているのです」


「私では信用にならないのか」

「それでは納得しない者がおるのです」


 集まってる村人たちの反応を見た。彼らは本気だろう。こうなっては仕方がない。


「かまいませんよ」


 黙ってようすをみていた俺は、ここで口を開いた。


「ト、トモアどの?」


「どうせ、アリ-シャ、いや、巫女たちが来るのを待たなければいけない。牢とはいえ野宿よりマシでしょう。えっと、食事は出るんですよね?」


「もちろんだとも」

「ああ、ならよかった」


「だからといって、そんな……っ」


 エリスは一人納得できない様子だ。しかし、どうすることもできないようだった。


 そのまま俺たちは、石造りの建物に案内された。階段を下りてその地下へ。そこには鉄格子の牢屋がいくつか並んでいた。


「しばらくすまないが」


 村人の男に牢の扉を開けさえたあと、村長がその言葉通り、一応すまなそうにして俺に言った。


「けっして、悪いようにはしない」


 そう言うと村長は、俺に牢の中へと入るよう促した。牢の中には木製のベッドが一つあった。


 そのベッドには藁がひかれ、その上にシーツがかかっていた。予想よりは悪くない。なんなら俺の実家より上等だ。


「本当にすまない」

 村長はもう一度、あやまった。


「村長、一ついいか? 彼は見た目より重症だ。まだ治療が必要なんだ」


「もう決まったことです。ご了承ください」


「わかっている! だから私も一緒に牢へ入る。それなら構わないだろう?」


「お、おい……」


 エリスはおかしなことを言いだした。


「それはよしたほうがいい。彼のためにもならない。あなたは牢というものを知らないようだ」


「カダラムどの!」


 エリスは何度も食い下がった。だが、村長は受け入れることはなかった。


「一日、数度の面会は許可します。それでよろしいですかな?」


「くっ、……わかった」


 これ以上の問答は無駄だと悟ったのだろう。エリスは、納得しがたいという表情のまましぶしぶ承諾した。


 そして俺の牢生活がはじまった。約束どおり飯は出た。お世辞にもうまいとはいえなかった。しかし腹は膨れた。これなら飢え死にするってことはないだろう。


 エリスは、毎日二回昼と夜、俺の治療をするために牢まできてくれた。


 窓もない狭くるしい部屋に閉じ込められて、時間の経過があやふやになったが、彼女のおかげでなんとか知ることできた。


 牢の中に入って五日ほど過ぎたころだった。

 懐かしい顔を見た。


 何年も会えないままで、そして再会できたあの日と同じくらい、それはうれしかった。

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