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第四話 巫女の盾 3 証明

 王都から西へ。セルビエスから王都間の街道のようには整備されておらず馬車が使えなかった。


 慣れない馬にまたがり五日ほどかかって辿り着いたのは山間の村。聖女が示したという、例の目的地の場所まで一番近くにある村だ。


 女騎士エリスは、さっそく目に付いた村人に声をかけた。この村の責任者の居場所をたずねるためだ。そして俺たちは村役場へと案内された。


「ようこそ、シニアン村へ。私が村長のカダラムです」


 そこには村長を名乗る老齢の男性と、その他に数人の男たちがいた。


 近くに封印関係の遺跡がある場合、近くにある町や村の責任者が教会から秘密裏にその管理を任されていることになっているらしく、そこへ立ち入るには教会関係者といえども、管理者である村長などに許可を受けなければいけないらしい。


「教会騎士では足りませんか?」


 なので、その許可をもらうために女騎士エリスがこの村の村長と交渉中だったのだが、少し雲行きが怪しくなってきた。


「ええ、残念ですが」


 巫女がいないとその許可が出せないらしい。ここにアリーシャがいれば話が早かったのだが。しかし、彼女はただいま大聖堂で待機中の身である。そもそも、その問題を解決するためにここまできたわけで。


「巫女さまが復活なされたことはわかりました。そして、ゾモラ遺跡に行かねばならないということも。しかし、その巫女さまは今どこに? なぜ、ご本人がここにおられないのか」


「それは……」


 せっかくここまできたのに無駄足になるというのはさすがに御免だ。


「……もう許可なんかほっといて、勝手に行っちまえばいいんじゃないの?」


 回りに聞こえないように、俺はエリスに耳打ちした。


「……村長に聞かないと正確な場所がわからんのだ」


 エリスも小声で返してきた。


 教会騎士もそこまでの情報を与えられていないのか。あの裏切り者の女騎士シルビアは封印の場所に詳しかったけど。


 いや、アリーシャがそれで疑ったんだっけ。ということは、敵は独自の情報源を持っているということか。


「ここにおられるのは今代の巫女アリーシャの名代、巫女の盾であられる」


 このままではらちがあかないと考えたのか、エリスは後ろ振り向くと、俺を仰々しく紹介しはじめた。何でもいいから役に立って見せろ。と、目で語ってくるエリス。


「あなたが、巫女の盾?」


 村長が初めて俺に視線を合わせる。それまでは従者かなにかと思って気にもとめていなかったのだろう。そして向けてきたものは驚きと困惑、そして疑いの眼差しだった。


「巫女の盾、トモアと申します」


 一斉に飛んでくる懐疑的で探るような視線。


「我々に、巫女の盾であることを確認するすべを持ちません。何か証しになるようなものはありませんか?」


 証拠を見せろというわけか。


「では、これを」


 俺に出せるものなんて一つしかない。


 腰の剣を抜いた。室内に緊張が走った。

 男たちが村長の守るように前に出た。どうやら彼らは護衛もかねているらしい。


「巫女の盾の任務についたとき、聖女さまよりいただいたものです」


 見せつけるように剣を高くかかげた。


「それを聖女さまからですか? たしかに美しい剣だとは思いますが……」


 まだ納得とはいかないらしい。


「これは妖精が鍛えた剣。盾に選ばれた俺にしか扱えない」


 そう告げたあと、俺は剣を床に突き立てた。


「あなたたちの中で一番、力に自慢がある人は?」


 それから、村長の周りにいる男たちに向かってたずねた。


 彼らは互いに顔を見合わせたあと、一人の男が前に出てきた。


「それで、盾どの?」


 男は不敵に笑いながら言った。


「どうぞ、引き抜いてみてください。できるものならね」


 挑発するような言葉に、怒りのためか男は顔少しひくつかせながらも言われたことにしたがって剣の柄を握った。


「ぐっ、……なに……?」


 俺よりも一回り二回りも大きい男が力の限り引き抜こうとしても、突き刺さった剣はびくともしなかった。


「ヨーゼフ……?」


 村長が困惑しながら男の名を呼んだ。

 数分の格闘のあと、男はあきらめたのか柄から手を離した。


「では、みなさん一緒にどうです?」


 続いて、その場にいた、村長を除いた四人が挑戦した。なぜかエリスまで参加していたのには驚いたが。さすがにその人数が協力すれば剣も震える程度には動かせた。しかし、引き抜くというにはほど遠かった。


 実は内心、引き抜かれてしまったらどうしようかとも思ったが、セルビエスで数人がかりで剣を鞘に収めていたときも、わずかに剣先を浮かすだけのことに四苦八苦していた。垂直に刺さった剣を持ち上げるのは相当に難しいだろう。


 男たちは、やはり無理だと悟ったのか剣から離れた。


「もうよろしいですか?」


 答えは返ってこなかったが否定もなかったので、俺は突き刺さっていた剣を片手で引き抜き鞘に収めた。


 久々に感じる畏怖の目。それはセルビエスで見たものと同じだった。あまり気持ちがいいものではないが、必要だったからと今回ばかりは仕方ないと割り切ることにする。


 しかし、エリスだけは違っていた。思っていたよりもやるじゃないか見直した、というような感心に近いものだった。


「巫女の盾のお力。しかと見届けさせていただきました」


 少し青ざめながら村長が答えた。


「わかりました。……いいでしょう」


 なんとか封印の立ち入り許可を得ることができたみたいだ。 


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