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前編

筍を食べすぎて吹き出物ができました。

 よくあるワンシーンで王太子から婚約破棄をつきつけられたロッサナ・トスカーニは、田舎の祖父母のところへ向かうところであった。というのも父親のトスカーニ侯爵が、その婚約破棄を知った途端、ものすごい勢いで怒り出して、お前なんかどっかへ行ってしまえ、と娘をポイっと捨てたからだ。

 母親のトスカーニ侯爵夫人はそんな娘を不憫に思ったものの、父親に歯向かうことはできない。でも、可愛い娘。引退して田舎に引っ込んでいる両親に連絡をしたところ、喜んでロッサナを引き取ってくれると言う。


 そんな流れで、売られていく子牛のような気分で、ロッサナは馬車に乗っていた。

 みんなが綺麗ねと褒めてくれた金色の髪は、ゆるく一つの三つ編みにしていた。白くてもちもちの肌も、みんなが綺麗ねと褒めてくれた。

 だが、これから待っている暮らしは華やかな暮らしではないのだ。逞しく生きてやる。


 祖父母の領地は田舎も田舎、超田舎だった。

 屋敷はそれなりだが、裏にうっそうと竹林が広がっている。


「よく来たわね、ロッサナちゃん」

 祖母が快く迎え入れてくれる。


「これから、お世話になります。おじいさま、おばあさま」


「いいんだよ、いろいと大変だったらしいね」

 祖父が温かい声をかけてくれた。


「でも、ただでお世話になるわけにはいきません。私ができることはなんでもやりますので、どうぞよろしくお願いします」

 ロッサナは深々と頭を下げた。三つ編みが前に垂れ下がってきた。顔を上げた時に、三つ編みも後ろに払った。

 いくら身内でも甘えることはしない。自分で生きていくための術を身につけなければ、と彼女は思っていた。


 この領地の民は、主に農業で生活を営んでいるらしい。田舎だから仕方ない。

 ただ、その農地を脅かしているのが、この竹林らしいのだ。


 竹林は成長スピードが速いとともに、繁殖力も強い。放っておくと、すぐに縦にも横にも斜めにも広がっていく。


 そんな竹林に悩んでいる領民の話を耳にして、ロッサナはふと思い出した。


「タケノコ……」


「たけのこ?」

 ロッサナの呟きに、祖父母は首を傾ける。聞いたことが無い言葉らしい。


「竹の子供のタケノコです」

 そう、思い出したのだ。タケノコという存在を。つまり前世の記憶、と言われているものを。

 しかも今は卒業シーズンを終えた、穏やかな春。これから、ニョキニョキとタケノコが顔を出す時期なのだ。


「おじいさま、おばあさま。裏の竹林ですが、管理を私に任せていただけませんか?」


 それは祖父母にとっても願ってもない申し出であった。前述したように竹林は成長スピードも速く、繁殖力も強い。このまま放っておけば、地盤も緩むだけでなく、農地まで広がってその農作物をダメにしてしまう恐れがある。


「もしやってもらえるのなら、大変助かる。私たち二人とも、年をとってしまったから、なかなか身体が思うように動かなくてな」

 顔に深く刻みこまれた皺を寄せながら、祖父はそう言ってくれた。


 そして祖父母はこの領地で農業を営む民たちを紹介してくれた。この民たちは定期的に集まって、作物の状態とか、今後の作物の植え付けの予定とか、そういうことを相談している。


「竹林の管理をすることになりました、ロッサナ・トスカーニです。よろしくお願いします」

 と自己紹介をして頭を下げたところ、一人の青年が「トスカーニ? 王太子の?」と呟いた。

 この青年は名前をエドアルドと言うらしい。しかも王都で勉学に励んだ経歴もあるらしい。だったら、トスカーニという名前を聞いたことがあるはずだ。


「王太子から婚約破棄された、ロッサナ・トスカーニです」とロッサナが言い直したところ、一同から笑いが溢れた。皆、他人の不幸は大好きだ。

 そして、なぜ急に年若い孫がこんな田舎に来たのか、ということを察してくれた。


 そうか、大変だったな。と肩を叩いてくれる者、これからいい出会いがあるわよ。と手を握ってくれる者、うちの息子はどうだい。と紹介してくれる者。こんな温かい民たちに無事に迎え入れてもらえた。

 

 もしかして、あんな王都で暮らすよりも、自分はこういった田舎暮らしの方があっていたのかもしれない、とロッサナはしみじみと思った。


「ロッサナ」と名前を呼ばれたので振り返ってみたところ、そこには例のエドアルドがいた。


「はい、なんでしょう。エドアルドさん」


「エドでいい」


「はい?」


「だから、呼び名だ。長いからエドでいいと言っている」

 上から目線の男だな、と思った。だが自分は新参者だし、領主でもない。そこは我慢しようと思う。


「わかりました、エドさん。それで、どのようなご用件でしょうか」


「いや、その悪かったな」


「何が。ですか?」


「その、王太子との婚約破棄のことだ」


「お気になさらないでください。事実ですから」

 そこで上品に笑む。「それに、それが無かったら今でもあの閉じ込められた学校の中です」


 ロッサナは王太子より二つ年下だった。本来であれば、まだ学業に励む身。だけど、父親のトスカーニ侯爵に捨てられたから、もうあの学校に通うことは無いだろう。

「すべては縁なのです」

 ロッサナはそう思うようにしている。幼い時に王太子と婚約が決まったのも縁、婚約破棄されてしまったのも縁、そしてここにこうやって来ることができたのも縁、何しろタケノコを思い出すことができたのも縁。


「ロッサナ、君は強いな」

 エドアルドはそう呟き、ところで、と話題を切り替える。「これだけの竹林を、どうやって管理するつもりだ?」


「まずは、これからの時期はタケノコを掘ります。その後は、不要なところは伐採しようと思っています」


「君一人でできるのか?」


「まずはやってみます。ダメなときは、皆さんに協力をお願いするかもしれません」


「竹林に悩まされているのは、皆、同じだからな。それの解決策があるのなら、喜んで協力しよう」


 ありがとうございます、とロッサナは頭を下げた。


「それから先ほど言っていた、たけのこ、とはなんだ?」

 やはりこちらの世界では知られていないらしい、タケノコ。


「竹の子供のタケノコです。というのは冗談ですが、これからの時期、竹が新しい芽を地上に出します。それをタケノコと呼んでいます。コリコリした食感がクセになります」


「食べられるのか?」


「はい。これからニョキニョキ生えてきますから、一生懸命掘りますね。そしたら調理法は皆さんに教えてますから、一生懸命食べてください」

 ロッサナは楽しそうに微笑んだ。


☆☆☆


 それから毎日、晴れている日にはロッサナは竹林を歩き回った。竹林の広がり具合を確認すると共に、タケノコがニョキニョキ生えてこないかと確認するため。

 それからあく抜き用に藁を燃やして灰を作っていた。祖父母の許可を取って、祖父母が管理する畑の外れで藁を燃やしていたら、エドアルドがやって来た。煙がもくもくしていたから気になったらしい。


「タケノコのあく抜き用に、藁を燃やして、灰を作っています。本当は糠のほうがいいのですが、こちらではあまりお米を食べる習慣が無いようなので」


「コメは家畜のエサになるな」


「そうですよね。でも、きっとタケノコご飯を食べたら、みんなお米が好きになると思うのです。その家畜のエサを分けてもらうことはできますか?」


 家畜のエサは玄米の状態だ。そこから手作業で精米して糠を取り出せば、これもタケノコのあく抜きに使える。


「わかった。誰かに聞いてみる」


 エドアルドのそれに、ロッサナはちょっと嬉しくなった。

 だって、もしかしたら、もしかしなくても、タケノコご飯が食べられるかもしれないのだ。


「ありがとうございます。もしタケノコご飯ができたら、エドさんにもおすそ分けしますね」


「楽しみにしている。それよりも、酷い顔だぞ?」

 言い、エドアルドはロッサナの顔についていた灰をぬぐった。が、余計に広がってしまった。

「すまん。広がってしまった」


「気になさらないでください。あとで洗いますから。では、玄米のほうをお願いしますね」


 エドアルドは頷き、その場を去っていった。


 次の日、エドアルドが玄米を担いでやってきた。ロッサナの目視換算で約五キロというところか。

「こんなにたくさん、よろしいのですか?」


「バーバラが、これをくれた」

 これ、とは玄米のこと。「だけど、バーバラもタケノコご飯というものが食べてみたいらしい」


「でしたら、バーバラさんにもおすそ分けをしなければなりませんね」


 タケノコが顔を出すまでもう少し。それまでに、この玄米を精米しよう。


 竹林の確認と精米でロッサナの一日は過ぎていく。心地好い疲れからか、毎日、ぐっすりと眠ることができ、王都で暮らしていたときよりも顔色が良くなり、身体が軽くなってきたように感じる。


☆☆☆


 そしてとうとう、タケノコが地面より顔を出す日が訪れた。鍬とカゴを、二本しかない腕で抱き抱えて、ロッサナは竹林へと足を運ぶ。

 この竹林は整備されていないし、初めての場所だからタケノコの生え方がわからない。とりあえず、掘った場所はメモしようと、カゴの中にはメモ帳とペンもある。


 かわいらしいタケノコの頭の向きを確認する。こんにちは、と倒れてきている方に、グワッとグサッと鍬を入れるはず。

 手応えがあった。タケノコの頭を掴んだら、地面からはなれてきた。よく見ると下の方には赤いぶつぶつが。根っこだ。途中から切らずに済んだらしい。


 よしっと心の中で叫ぶ。掘ったタケノコはカゴの中へ。


 タケノコを探すついでに竹皮も探そうと思ったが、竹皮の季節はもう少し先だったような気もする。タケノコのシーズンが終わる頃。

 竹皮はおにぎりを包むのに使いたいなぁ、とロッサナは思っていた。タケノコご飯のおにぎりを竹皮で包んだら、最高じゃないか。


 今日はとりあえずタケノコを五本程度にしておいた。明日にでも掘れそうなタケノコもまだまだありそうだ。

 掘ったタケノコはあく抜きする。

 鍬とカゴを持って屋敷に戻ると、なぜかエドアルドがいた。


「やあ」とロッサナを見つけるや否や、右手を挙げてきた。「噂のタケノコを見に来たよ」


「こんにちは、エドさん。ちょうど、タケノコを掘ってきたところです。これからあく抜きをしますから、タケノコご飯になるのはまだ先ですよ。そうですね、今日の夕飯には間に合うかと思いますが」


「そんなにかかるのかい」

 エドが驚くのも無理は無い。今はお昼前。きっと昼ご飯を食べにきたのだろう。


「きちんとあくを抜かないと、お腹を壊しますからね」

 待ちきれない子供をあやすかのように、ロッサナは笑っている。


 あく抜きのために厨房を借りようかと思っていたロッサナだが、これから毎日タケノコのあく抜きをするたびにそこを借りるのも、料理人たちの迷惑になるだろうと思い、屋敷の裏の雨が降っても濡れないような場所に、自家製のかまどまで作り上げてしまった。


 そして毎日、瓶に入れた玄米を振り振りしたり混ぜたりして精米を行い、なんとか取り出した糠を鍋にいれる。皮ごと茹でたいところだが、鍋の大きさも考えて皮を剥いてから茹でる。

 そのロッサナの作業を、エドアルドはじっと見ている。物珍しいのだろう。タケノコが途中で浮いてこないように落とし蓋をする。あとはこれで一時間ほど、火にかける。


 そこまで作業をして、祖母に呼ばれた。どうやら昼ご飯の時間らしい。呼びにきた祖母は隣にいたエドアルドに気付き「エドアルドも良かったらどうぞ」と誘っていた。エドアルドはもちろん、その誘いを断るようなことはしなかった。


 昼ご飯を食べ終え、かまどに戻ってくると、タケノコの匂いが漂っている。そこで火を止めてこのまま冷ます。

 先にお米を浸水させておこう。米を研ぎ、鍋にその米と水を入れておく。とりあえず、お米は三合分、約四百五十グラム。失敗しても諦めがつく量。

 それからだし汁の準備をする。料理人に聞いたら、乾燥キノコと乾燥昆布を貰えた。でも、それの条件は、やはり「そのタケノコご飯というものを食べさせてくださいね」だった。

 タケノコご飯、話題沸騰中。


 鍋でのご飯の炊き方は、はじめちょろちょろ中ぱっぱ赤子泣いても蓋とるな、だったような気がする。はじめちょろちょろは弱火でお米に水を浸透させるはず。でも、先に浸水させておけばいきなり中ぱっぱでも良いかな。中ぱっぱは強火。あとは吹きこぼれないように火を調整して、最後に追い炊きして蒸らす。赤子泣いても蓋とるなって、鍋がピーピー泣くんだっけかな? とか、今の記憶に無い記憶を思い起こす。


 そうやって黙々と作業しているロッサナの様子をエドアルドはじっと見ている。

 この人は暇なのか? とロッサナは思っていたが、わざわざタケノコに興味を持って来てくれたくらいだから、その言葉を正直に口にするのはやめた。

 いざとなったらタケノコ堀り要員にカウントしておこう。


 タケノコも冷めたようなので、包丁で適当な大きさに切る。それから浸水しておいたお米をざるにあけて余計な水気をきる。お米三合ということは、だし汁は六百ミリリットル。お米を鍋に入れ、だし汁をいれて、上にタケノコをちらす。そして、火にかける。


「あとは、炊きあがるのを待つだけですよ。あと一時間もすれば、炊きあがると思います」

 さっきから黙って人の作業を見ていたエドアルドに声をかけた。


「それ、食べられるのか?」

 エドアルドが指したそれとは、残っているタケノコのこと。残ったタケノコはあく抜きをしてしまったため、ボウルにきれいな水を張ってそこにいれてある。

「はい、食べられます。食べてみますか?」

 エドアルドが頷いたため、水に浸していたタケノコを一切れつまみ、水気を切ってから差し出した。「どうぞ」


 エドアルドは食べてみたいと言ったわりには、恐る恐るタケノコを受け取り、ゆっくりと口の中へ入れる。コリコリという食感を味わっている音が、こちらにまで聞こえてくる。


「なんか、変な食感だな。味はちょっと甘いような」


「甘味があるのが孟宗竹(もうそうちく)の特徴ですからね」


「なんか、酒が飲みたくなってきたな」


「少し味付けをすれば、酒のつまみにピッタリです」


「ご飯以外にも、料理に使えるのか?」


「そうですね、炒め物、和え物、汁物、煮物とかですかね?」


「へえ、食べてみたいな」


「ええ、これからタケノコがたくさん生えてきますから。そうしたらいろんな料理を試してみましょう。でもエドさん。食べすぎはダメですよ」


「そうなのか?」


「はい、タケノコは食物繊維が豊富ですから、食べすぎるとお腹が痛くなってしまいます。他にも肌荒れとかいろいろあります。一日の量はこれくらいにおさえてください」

 と言って、ロッサナは右手でグーを作る。それを見て、わかった、とエドアルドは頷いた。


 かまどの鍋がぐつぐつ言い出し、香ばしい匂いが漂ってきた。エドアルドがかまどに近づくが「蓋をとってはダメですよ」とロッサナが制する。

 この時間では、タケノコご飯は夕飯ではなくおやつになるかもしれない、と思っている。


 タケノコご飯の蒸らしもそろそろ終わり。蓋を取ると湯気がモワっと顔に襲い掛かる。

「いい匂いだな」

 エドアルドのその言葉にロッサナは頷き、急いで木べらでご飯を混ぜた。底にはおこげができている。このおこげはタケノコの香りと調味料をぎゅっと凝縮しているから、格別に美味い。


「熱いですから、気を付けて」

 木べらでタケノコご飯をすくって、エドアルドの手に少しだけのせる。エドアルドは、熱い熱いと言いながら、口の中へゆっくりと放り込んだ。


「これが、米?」


「はい、もちもちしていて美味しいですよね。今回は調味料で味をつけていますが、味つけをしていない白米でも、噛めば噛むほど甘味が増して、美味しいですよ」


「なんかコリコリ言ってる」


「はい、そのコリコリがタケノコです。ご飯のもちもち食感の中で、そのコリコリ食感がアクセントになって、くせになりませんか?」


「うん、美味いな」


「それは、よかったです」


 タケノコご飯は三合しか作っていない。まずは玄米をくれたバーバラさんへおすそ分け。そして調味料をくれた料理人たち。最後はもちろん、ここで生活することを快く引き受けてくれた祖父母の分。


 鍋からボウルにタケノコご飯をうつして、屋敷の中へと入る。もちろんエドアルドも彼女の後ろをついていく。


「おじいさま、おばあさま。タケノコご飯ができあがりました」

 ボウルから手際よくお皿にうつし、フォークを添える。タケノコご飯をフォークで食べるのは変な感じがするが、箸が無いので仕方ない。


「これが、あの家畜の餌のお米? そして、あの竹林から生えてきたものか?」

 祖父は言いながら、恐る恐るタケノコご飯を口に入れた。そのタケノコご飯が祖父の喉元を過ぎたのを見てから、祖母も食べる。


「あら、これは美味しいわね」

 祖母は言う。「特にちょっとこの茶色いところ。カリカリしていて美味しいわ」

 祖母が言っているのは、多分、おこげのところだろう。


「美味しいと言ってもらえて、嬉しいです。エドさんもどうぞ」

 先ほど、一口しかあげなかったから、改めてエドアルドの前にもタケノコご飯をさしだした。「夕飯ではなく、おやつに間に合いましたね」


 うふふと、ロッサナは笑う。「ゆっくり食べてくださいね。私は料理人さんたちにも味見をしてもらいにいってきます。その後、バーバラさんのところに行ってきますね」


 厨房に行き料理人たちにもタケノコご飯を配ると、こちらも大好評だった。それからあまっているタケノコで肉とナッツの炒め物を作りたいと提案したところ、料理人たちも大変ノリ気で夕飯のメニューにしましょうとまで言ってくれた。


 それからタケノコご飯を持って、バーバラの自宅へと向かう。自宅は留守だから、畑か。畑に向かうと「ちょうど、休憩しようと思っていたところなのよ」と言う。では、休憩のお供にどうぞと言って、タケノコご飯を差し出した。


「ロッサナちゃん、これがあの家畜の餌なの?」


「はい。家畜の餌は玄米の状態でしたので、私が精米しました」


「へぇ」バーバラは驚きながらも、タケノコご飯を一つまみ食べてみた。「あらぁ、もちもちしていて美味しいわ。しかもお腹にたまりそう」


「はい、ご飯は腹持ちがいいですから。これはタケノコと一緒に炊き込みご飯にしましたが、普通に炊くと白いご飯になります」


「へぇ。あの家畜の餌がねぇ。その精米っていうのは、私たちにもできるのかしら」


「はい、少し時間はかかりますが。手順は簡単です」


「今度、教えて欲しいわ」


「はい」

 ロッサナは大きく頷いた。


 そしてロッサナは祖父母の待つ屋敷へと戻る。


☆☆☆


 エドアルドの提案で、領民たちが一同集まることになった。というのも、タケノコ料理をみんなに食べてもらったらどうか、ということ。

 さすがにそれだけのタケノコご飯を準備することは難しいので、料理人たちと協力してタケノコと肉とナッツの炒め物にすることにした。それから、汁物。


 やはり評判は上々で、タケノコを掘ってみたい、調理の仕方を教えて欲しい、という声までも聞こえてきた。

 これはロッサナにとっても願ってもいないことだった。


 タケノコ堀りを手伝ってもらえるなら大変助かる。


 料理については、タケノコのあく抜きの必要性と、食べ過ぎは注意ということを説明した。あく抜きに必要なのは糠か灰。もしくは米のとぎ汁でも良いのだが、米を食べる習慣が無いこの地域では糠と米のとぎ汁を手に入れるのは難しいだろう。

 灰であく抜きをすると、タケノコの色がかわってしまうから、炒め物のほうがあうとか、そんな細かいところも説明すると、皆、熱心に話を聞いてくれた。


 あれだけの竹林。これからタケノコが襲来してくるのは目に見えている。ただ、ここの民だけで消費できるかというのもいささか不安ではあった。


「王都でも売ってみたらどうだ」

 と言い出したのはエドアルド。「王都の知り合いのレストランにも相談してみようか」


 この地の農作物は王都にも売っている。もちろん庶民の手にわたることもあれば、そういったレストラン、さらに貴族様の食材にもなっている。


「たくさんとれるようなら、いいんじゃないかな」と誰かが賛同すると、次々と賛同する者が現れる。

 タケノコは間違いなくたくさんとれる。ロッサナはそう思っていた。


 王都までは早馬で一日と半。鮮度的には問題ないだろう。

「まずは、これから生えてくるタケノコの量を見極める必要がありますが、ぜひ、王都のみなさんに食べていただきましょう」

 とロッサナが言う。

 これでタケノコの美味さが広まるのは間違いなしだ。しかも季節もので食べられる時期は一年の中でも数か月と短い。話題性も抜群。


「では、ロッサナ。善は急げだ。タケノコを持って、俺と王都へ行って欲しい」

 エドアルドが言うと。

「それはできません」

 ロッサナはきっぱりと断った。「私にはまだ、この地のタケノコを掘るという使命が残っております。また、これからみなさんにタケノコの掘り方を教えねばなりません。タケノコは一日で三十センチ以上も伸びるのです。三日も私が留守にしていたら、タケノコは竹になってしまいます」

 というのは少々オーバーではあるが、タケノコの成長スピードは速い。大きくなりすぎると、硬くて食べられない。


「王都にはエドアルドさん、お一人で行ってください。でも、タケノコのあく抜き方法や調理の仕方についてはメモをお渡ししますから」

 しぶしぶと納得したエドアルドは、一人で王都へと行くことになった。

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