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023 訪問者

 俺が宿の部屋を出ようとすると、コンコンとノックの音が鳴った。自慢じゃないが、この街に訪ねてくるような知り合いは居ない。俺は少し警戒しながら返事をする。


「誰だ?」


 扉越しに尋ねる。


「私はルイーズ魔法女学園の者です。学園長が魔導ダンジョンで助けていただいた件についてお礼がしたいということで迎えにあがりました」


 そういえばお礼に来るって言ってたな。俺がドアを開けると、身なりの良い紳士が立っていた。


「学園長って、あの最強の魔法使いと呼ばれるダークエルフのお方ですよね!? 私も会ってみたいです!」


「おいおい、リタ。ラビリスだけ部屋に残すのは可哀相だろ」


「3人とも来ていただいても構いません。学園長からは許可をいただいております」


 学園長はこうなることが分かっていたのか? いや、そんなわけないか。


「ラビリスどうする? 一緒に行くか?」


「私も一緒に参ります」


「外に馬車を用意しておりますので、お乗りください」


 俺達は言われるがままに馬車に乗り込み、出発した。リタが言うには学園に向かっているらしい。しばらくすると馬車は止まった。


「着きました。ここからは歩きになります。私に付いてきてください」


 使者についていくと学園の立派な建物に入り、学園長の部屋らしき場所まで案内された。


「学園長、ラング様一行をお連れしました」


「入りなさい」


 使者は扉を開けると、俺達に入るように促した。俺達が部屋に入ると、学園長と呼ばれたダークエルフの美女が窓際に立っていた。そして、ソファには既に先客が座っていた。


「こんにちは、あなたがラングさんね?」


「はい、俺はラングです。あ、こっちがリタで、そっちがラビリスです。2人ともこの学園の生徒です。あなたがこの学園の学園長?」


「そうよ。私はシビッラ。我が学園の教師と生徒を助けてくださって本当にありがとう。リタさんもラビリスさんも評判は聞いていますよ」


 リタとラビリスは後ろでどんな評判なのか反応に困っている。


「いえ、たまたま通りかかって助けただけですから」


 俺はソファに座っている先客が気になって、視線を向けてしまった。どうみても一般人じゃない。貴族のオーラを感じる中年男だ。


「シビッラ。私の事を彼に紹介してくれないのかい?」


 ソファに座る貴族風の男が口を開いた。


「仕方がないわね。こちらはエリアス。エリアス・マトゥテス。この魔法都市の領主よ」


「ラング君、娘のベアトリーチェを救ってくれてありがとう!」


 握手を求めてきたので応じると、がしっと掴まれ、ブンブンと強く振られる。ベアトリーチェがどの生徒なのか全く分からないが、俺が助けた生徒の内の一人だったのだろう。


「いや、本当にたまたまなので気にしないで下さい」


「なんと謙虚(けんきょ)な青年だ! 素晴らしい!」


「ええ、我が学園の生徒もラングさんのような人になって欲しいわ」


「ところで、ラング君はどうしてこの街に?」


「魔法を覚える為にこの街に来ました」


 まぁ、全く才能は無かったけど。結果的には魔法が撃てるようになったので問題はない。


「なるほど、ここは魔法の知識が集まる都市だから是非ゆっくりしていってくれ。後日、お礼を兼ねて君達の歓迎会を開こうと思うのだが、招待を受けてくれるかな?」


 リタやラビリスが学園に通う期間はこの街で生活することになる。領主とは良好な関係を築いておいたほうがいいだろう。それに、基本的に領主の誘いを断ることは出来ない。個人的には美味しい料理をアイテムボックスに入れたい。


「分かりました。喜んで招待を受けます」


「はっはっは! それは良かった! 冒険者からは極稀(ごくまれ)に断られることがあるものでね。それでは、すぐに準備をしなければならないので私はこれで失礼するよ。日程が決まったら近日中に連絡をするのでそのつもりでいてくれたまえ」


 領主であるエリアスは忙しいと連呼しながら去っていった。


「ラングさん、今回の件は本当に助かりました。また歓迎会でお会いしましょう」


「はい、俺達はこれで失礼します」


 学園長も忙しそうだ。あれだけの事件が起きたのだから、その後のアフターケアをしなければならないのだろう。俺達3人は宿に戻った。俺は魔導ダンジョンに行こうと思っていたが、歓迎会までは筋力トレーニングでもしながらゆっくりと休むことにした。

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