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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
1. 魔法と共にある世界
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1-6. 術式調査の旅(2)

 見上げると空一面は白い雲で覆われていた。薄い雲の隙間から淡く夕日が差している。但し、湿度が高いようで蒸し暑さを感じる。どこからか磯の香りも漂ってきているようだ。


 ふと後ろを振り返る。視線の先には、トテトテ、と付いてくる妹の姿があった。彼女の頭には肩幅より大きな麦わら帽子が載っている。


「深く被り過ぎじゃない? 前が見えてないでしょ?」

「ん? お姉ちゃんの靴を見て追いかけてるから大丈夫」

「やっぱり前が見えてないじゃない」


 シロは腰を少し屈めて、妹の帽子の角度を調整した。これでよしっと。


 ◇


 列車を降りたシロ達は、目的地の浜風村を散策していた。手元の地図によれば、まもなく宿泊場が見えてくるはずである。


「あの左手に見える建物がそうみたいよ。黒い瓦屋根の」

「あれなの? なんか、2階建の普通の民家みたい」

「この地図だと、あの建物で間違いなさそうなのだけれど」


 シロは手元に視線を戻す。やはりあの建物で間違いないようだ。


「右手の丘には何があるの?」

「あそこに術式があるそうよ。日も傾いてきているし、このまま一泊して明日の午前中に調査かな。明日は早く起きてよね」

「朝は強いから大丈夫だよ」

「嘘つき」

「朝に強いお姉ちゃんが私を起こしてくれるから大丈夫って意味だよ」


 そう言って悪戯な笑みを浮かべる妹につられて、思わず笑ってしまった。


 ***


「ごめんください。どなたかいらっしゃいますか?」


 宿泊場の扉を開けると、そこは玄関になっていた。普通の民家のような風景に少し驚く。足元には靴が2足揃って並んでおり、上がった先には木張りの廊下が続いているようだ。ただ、途中で視線を遮るように暖簾がかかっており、家の中を見ることはできない。横を見ると、妹が靴を脱ごうとしている。コラコラ、まだダメよ。


「あらあら、いらっしゃい。白神様でよかったかしら?」


 出迎えてくれたのは少しふっくらした中年の御婦人だった。人懐っこい笑顔は接客業向きだなとシロは思った。


「はい。2名で予約していた白神です。本日はよろしくお願いします」


 頭を下げるシロに、民家みたいで驚いたでしょ、と御婦人は返す。


「さあ、上がってちょうだい。部屋まで案内するわ。靴はそこで脱いだままで大丈夫よ」


 2階に通されたシロ達は部屋に入る。木目調のシンプルな家具で統一され、ベッドは2段だ。部屋はそれほど広さはない。本当に民家の一室なのね、とシロは思った。


「この部屋は好きに使って大丈夫よ。食事が出来たらこちらから呼ぶわね。1階にいるから何かあったら遠慮なく言ってね」

「ありがとうございます。1つお願いがあるのですが、よろしいですか?」

「なにかしら?」

「私たち、近くの魔法を調査に来た研究者です。もしお時間がよろしければお話を伺いたいのですが。もちろん、業務の邪魔をするつもりはありません。空き時間に少しお話させていただけると助かるのですが。いかがでしょうか?」

「分かったわ。お客様は貴女達しか泊まってないから気にしないで。好きな時に声をかけてちょうだい。私も若い子達とお話するのを楽しみにしてるわ」

「ありがとうございます。後ほど、お願いします」


 頭を下げるシロを見て、追いかけて妹も頭を下げた。


 ***


「お茶までいただいてしまってすみません」


 1階にある畳の敷かれた部屋に通されたシロ達は、出されたお茶を啜っていた。正面には宿泊場の御婦人が座っている。


「それで、聞きたいことって何かしら? 私の分かることだと良いのだけれど」

「些細なことでも構いません。近くの魔法に関してご存知のことを伺いたいのです。それから、魔法を調査する上では魔法の生い立ちだけではなく、その地の風土や習慣に関する情報も役立ちますので、この浜風村のことも合わせて伺いたいです」

「そう? じゃあまずはこの村のことから話しましょうか」


 そして御婦人は語り始めた。要約すると、このようになる。


 浜風村は、港で採れたカタクチイワシを特産品とする、小さな漁村だ。だが長年、特産品の良い活用方法を見つけることが出来ず、比例するように村にも活気がなかった日々が続いていた。

 とある日、流れの術式研究者がやって来た。その研究者は村の現状に同情し、特産品を加工する術式を製作した。その加工品は村外でも非常に好評で、この村の名物になった。


「で、アンチョビパスタ......ですか?」

「そうよ。とっても美味しかったのだから。魔法が使えないと聞いて、それはもうガッカリした人が多かったのよ」


 明日、調査する術式は、カタクチイワシからアンチョビパスタへ変質するものらしい。1回で100人分作成できる大魔法だそうだ。マナの無駄遣いなのではないだろうか、とシロは内心で思う。


「そう言えば、研究者の方がおっしゃっていたわ。150人分作れるように魔法を『ぶーすと』できるそうよ」

「『ぶーすと』? ブーストですか? どういうことですか?」

「人の生き血をね、捧げるのよ。そうすると、150人分も作れたの」

「生き血ですか......」


 何やらオカルトっぽい話になってきている。話を聞きながらシロは手元のメモに視線を落とす。これまでの話は信用して良いものなのだろうか。


「そんなに大げさな話じゃないわ。村人全員からちょこーっとだけ献血してもらえば十分だったから」


 コロコロと笑う御婦人に、はぁ、とシロは返した。


 ◇


「代償って技術だよ、お姉ちゃん」


 部屋に戻ると、モモが補足する。人見知りするのは仕方がないけど、少しは御婦人との会話に参加してよね、とシロは思う。


「マナの代わりに供物を捧げるんだよ。そうすると、マナの消費量が抑えられる。それが代償ってやつ」

「凄いじゃないのそれ。報告書にまとめたら、広く周知できるようにしたほうがいいかしら」

「んー、やめた方がいいと思うよ。私の勘だけど」


 妹の勘。何か躊躇することがあるのだろうか。


「私も色々と実験したんだけど、人間の血以外は供物にならなかったんだよ」

「え?」

「人を生贄に捧げて大魔法を発動させるって、中世の黒魔術っぽいね」

「やめてよ、モモ。そんなオカルトみたいな話は」


 でも私以外に代償を知る人がいるとは思わなかったな、と呟く妹の顔を見つめる。


 人を生贄にする? マナの消費が抑えられる?

 妹は何を言っているの?


 だったら、マナって一体何?

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