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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-18. 泥濘む道を歩く

 午前中の雨でぬかるんだ道には、小さい足跡が続いていた。


 足元から伝わる冷気に足跡の主はその身を縮こまらせる。雲の隙間から微かに覗く夕陽では身体を暖めるには心許なかった。慣れない裸足で歩く不安定さも相まって、シロの心を徐々に冷やしていく。


 マシロ宅を抜け出してから、どれほどの時間が経っただろうか。感覚が麻痺していく様を感じながらシロは無心で両足を前に動かしていた。

 しばらく歩みを進めていると、木々の密集している場所がシロの視界に入る。ここに目的の洞窟があるはずだ。


『ーーーー』


 突如、シロの背後で爆発音のようなものが聞こえた。その音に驚いた鳥たちが目の前の林から騒がしく羽ばたいていく。

 思わず振り返りそうになる右足を理性で押し留める。


(ここで振り返ってはダメだ。あの屋敷へ戻りたくなってしまう)


 優先順位は既に決めている。だから、あの屋敷にアオやマシロ達を置き去りにした意味をシロは考えないようにしていた。そうしなければ決心が揺らいでしまう。


(前に進もう。早く洞窟へ行かなくては)


 先程から頰を伝う雫を拭い、シロはその足を前に踏み出す。


 ◇


 林の中に入り、砂利の混じる道を進む。踏み出す度に冷たさと鋭い痛みが足の裏を襲うが、シロの歩みは止まらない。やがて、シロの目の前には大きく口を開く洞窟が見えてきた。


 洞窟の手前でシロは足を止めた。

 木々に囲まれた周辺は薄暗く寒々しく感じる。シロは洞窟の中を覗き込むが、漆黒すら飲み込んでしまいそうな程に暗く、その先を見通す事は出来なかった。

 前回ここを訪れた時には隣にモモとアオが居た。今、シロの膝が震えているのは寒さが理由なのだろうか。それとも、心細さなのだろうか。


 シロは照明魔法の触媒を起動すると、洞窟の中へ歩みを進めた。


 照明を頼りに先へ進むと、正方形の真っ白な大きい床が見えてきた。床には奇怪な文字が羅列されている。


(風島の術式。振り返ればこの術式が全ての始まりだったわね)


 この術式が魔法の仕組みを知るきっかけとなった。モモを失う遠因でもある。こうして、危険な目に遭っているのもこの術式のせいだ。シロは睨みつけながら思う。


(過去に遡った私がこれを製作したのよね)


 幸か不幸か、モモの研究記録の写しはマシロ宅へ置いたままだ。今のシロには術式を製作する知識がない。このまま過去に行ったとして同じものが作れるとシロには思えなかった。


(少しずつ歴史が変わり始めているのかしら。そうだと良いのだけれども)


 白い床から視線を上げたシロは辺りを見回す。ここから少し歩いた場所には、平らで広い空間があるようだ。


(時間旅行の魔法の術式はそこへ設置しよう)


 そう決めたシロは洞窟の奥へと足を動かす。


 目的地に到着したシロは、手にしていた大きな布を広げて床に敷く。

 布に術式を描写し持ち運びを容易としたマシロの発想は素晴らしい。だが、欠点もある。シロは記憶の中からマシロの語る注意事項を思い起こす。この術式は一度起動すると燃え尽きて灰になるそうだ。つまり、時間を遡る機会は一度きり。失敗は許されない。


 次は術式を起動するための起動石の準備だ。シロは先ほど敷いた布の上にペタリと座り込む。

 シロはポケットに忍ばせていた薄い水色の石を出し右手に取った。そして、左手の指をナイフで軽く傷つけると、流れ出た紅い雫をその石に吸わせる。一瞬、石と布がどちらも銀色の光に覆われた。


(これでよし。では、始めましょうか)


 そっと立ち上がったシロは布から降りて一歩下がる。胸の前で拳を握ると軽く息を吐いた。


「カツン」


 不意に洞窟の入り口から聞き慣れない音を聞く。シロは音のする方向へ顔を向けた。


 カツンカツン、と靴音に思われる無機質な音色が、シロのいる場所へ徐々に近づいてきている。

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