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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-16. 老婆の瞳にうつるもの

 雨脚が強まる中、風島に到着したシロ達は前回と同様にマシロ宅で一夜を過ごした。


 翌朝、マシロの部屋へ通されたシロ達は老婆と再会を果たす。

 白い家具が並び、以前と変わらず清潔感を漂わせる部屋の奥には、白く大きなベッドがあった。以前と異なっていたのは、ベッドの隣に置かれた車椅子に老婆が座っていた点である。


「また会えて嬉しいわ。何も無いけど適当に寛いでちょうだい」


 柔かに微笑むマシロの声に、シロ達は頭を下げる。

 時おり窓を叩く雨音が響く室内では、か細い老婆の声が若干聞き取りづらく感じ、シロは彼女との距離を縮める。


「今日はご相談があり、二人で伺わせていただきました」

「僕の名は青木アオと申します。以前もこちらへ伺った事があるのですが、覚えていらっしゃいますか?」

「ええ、色男ですもの。忘れていないわ。私はマシロよ」


 簡単な自己紹介を終えると、今日は何の用かしらとマシロが笑顔で尋ねた。

 協力を得るためには、彼女の心を掴まなければならない。そう考えるシロは、少し間を空けて呼吸を整えると言葉を発する。


「マシロさん。私もこの世界が嫌いになりました」


 いつかのマシロの質問に対するシロの答えだ。意外そうな表情を浮かべるマシロは続きを促す。


「だから、この世界を壊そうと思います。協力して貰えないでしょうか?」

「あら、恐ろしい事を言うのね。どういう心境の変化があったのかしら?」

「魔法という仕組みの一端を知ったのです。マシロさんもご存知でしたよね?」


 シロの問いにマシロは笑みで返す。どうやら正解したようだ、そう感じたシロは言葉を続ける。


「私にはその事実を看過することができませんでした。だから、魔法という仕組みを壊したいのです。そのために、マシロさんの力が必要なのです」

「魔法はーー」


 マシロは一度言葉を切ると、険しい表情でシロに視線を向ける。張り詰めた空気にシロは内心で冷や汗をかく。


「既に人々にとって生活の礎となっているわ。魔法の存在するこの世界を望む人間が多いことも事実よ」

「承知の上です。それでも、この世界には......私たちの未来に魔法は必要ありません。私はそう考えます」

「随分と傲慢な考えなのね」


 少し呆れの混じる声色のマシロは質問を続ける。


「人々が大混乱に陥っても構わないという事かしら?」

「いいえ、そうなりません。過去に遡って、魔法の発見を無かった事にしたいのです」


 そうすれば彼女の心配は杞憂に終わるはず。だから協力して欲しい。シロは縋るような思いを込めてマシロを見つめる。


「過去へ遡る......。貴女はまた同じ選択をしてしまうのね」

「え?」


 マシロは『また』と言った。どういう意味だろうか。彼女の意図を汲み取れずシロは返す言葉を紡ぐ事が出来なかった。


「少しだけ昔話をしてもいいかしら」

「いや、あまり時間がないので、関係のない話はーー」


 マシロの話を遮り話題を軌道修正しようと試みるアオを、シロは左手で制止する。

 恐らくは無関係な話ではないだろう。この話は聞くべきだ。シロは続きを促す。


「遮ってしまいすみません。続きをお願いします」

「ええ、構わないわ。じゃあ続けるわね。むかしむかし、あるところに一人の女性がいましたーー」


 そして、目を瞑るマシロは何かを思い出すかの様に昔話を始める。


 マシロ曰く、彼女は非常に頭が良く、見目麗しい若い女性だったそうだ。

 人目を避けるかのように風島へ移り住んだ彼女は、己の持つ豊富な知識を駆使して、この島に一つの術式を残した。そして、共に術式製作に携わった助手の男と結婚し、この島で研究に打ち込む日々を過ごしたそうだ。

 しかし、美人薄命と言われるように彼女も短命だった。一人目の子供を出産する際に彼女は短い生涯を終えることとなる。享年30歳だったそうだ。


「これが私のご先祖様についてよ。彼女の名は灰田シロといったわ」

「シロ?」

「ええ。旧姓は......」


 そこで目を開けたマシロは、真剣な様子でシロを見つめる。


()()()()。貴女のことよ」


 驚きのあまり瞬きが増えるシロに向けて、マシロは言葉を重ねる。


「この世界は、貴女が歴史を変えた後の世界なの」

「私が変えた世界......でも、魔法は......」


 いつの間にか白昼夢を見ていたのだろうか。理解を超える内容に頭がうまく働かない。ボンヤリとするシロはそんな事を考えていた。


「そうよ、貴女の計画は一度失敗したのよ。だから、この世界に魔法は存在し続けている。それでも、まだ貴女は歴史を変えることを望むのかしら?」


 もはやマシロの言葉は頭に入ってこなかった。『失敗』、その二文字がシロの頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。

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