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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-15. 揺れる車内で(2)

白神シロ視点

 目に疲労を感じ、手元の書類から視線を上げる。


 琥珀色に装飾された長椅子や壁は色褪せており、この列車が作られてから時が経っていることを感じ取れる。

 対角線上にはアオくんが座っており、ウトウトと舟を漕いでいる。床に滑り落ちていた紙を拾い上げると、そっと彼の横に置いた。


(ずっと気を張ってくれていたものね)


 彼のあどけない寝顔に頰が自然と緩むのを感じる。


 彼にとっては突然巻き込まれた非日常であっただろう。疑問と困惑が頭の中を占めていたと思うが、それでも普段と変わらない振る舞いで私の隣に居てくれた。優しさに溢れる気遣いを見せてくれていた。その事実に私がどれだけ癒され、勇気付けられたことか。彼からはいつも貰う一方で、何も返せていない気がする。


 ◇


 この旅の終点は風島だ。そこでマシロさんに会い、私たちの計画を実行に移す。アオくんと話し合ってそのように決めた。

 出来れば、私たちが風島に着く頃には雨が止んでいて欲しい。あの星空を彼と一緒に見たい、そう強く願ってしまう。


 ......。


 計画ねぇ......。


 ふと、右手にある車窓に視線を向ける。

 外には粒の大きい雨が降っているようで、先程から窓に叩きつける音が室内に響いていた。流れる田園風景には濃い霧がかかっており、その様子をハッキリとは見通せない。しばらくは、雨が降り続きそうに感じる。



 ーーこの論理破綻したものを本当に計画と呼べるのだろうか



 なにが計画だ。我ながら失笑してしまう。


 時間旅行の魔法。大量のマナを必要とする術式を起動するために、己の血液を注ぐ必要がある。

 それ程の術式を起動するのに僅かな血液で足りるのか。残念ながらモモの試算結果では不十分だった。代償という技術はマナの変換効率があまり良くないからだ。起動するためには致死量を大きく超える血液を要する。時間旅行を行うことが目的ではないので、起動するために命を落としてしまっては意味がない。


 過去に遡ったら、始祖の触媒を破壊する予定だ。触媒が無くなってしまえば、この地にマナが満ちることはなくなる。

 しかし、触媒自体の製作はそれほど難しいわけではない。私が破壊した後、別の誰かの手によって再び製作されてしまう可能性を完全に排除することはできない。魔法を廃する方法は根本的な見直しが必要だろう。


 だから、この計画は不完全で実現性の乏しいものだ。


 もちろん、予備の計画は別に用意してある。だが、アオくんには知らせていない。言えるわけがなかった。優しい彼が聞けば絶対に反対するだろう。

 そのためにも、彼をこのまま欺き続けなければならない。その上でマシロさんと交渉する必要がある。その方法を考えなくては。


(最近は、嘘を吐いてばかりだわ)


 気付けば、嘘を吐くことに慣れてしまった。

 目的のため、誰かを守るため、嘘を正当化しようとしている自分がいる。最愛の彼を欺くことにも僅かな罪悪感しか感じていない。すっかり汚れてしまった気分だ。


 中世の時代では、超常的な力を使い、人々を惑わす存在を魔女といっていたそうだ。

 私の選択は多くの命を救うはずだが、それを望まない者達もいるかもしれない。便利な生活に慣れきった人々は失った物を嘆く可能性もある。そもそも、その嘆く機会すら奪い、強制するのが私のやり方だ。一体、魔女と何が違うのだろうか。


 魔女の最期は、迫害され民衆の前で火あぶりにされたという。


 では、私の最期は。

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