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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-E. 【閑話】王子様の憂鬱(青木アオ視点)

(一体、どうなっているんだ!)


 既に始業時間を過ぎた研究室を見回すが、僕以外には誰の姿もない。


 壁に掛けてあるカレンダーに視線を向ける。

 今日は月曜日だ。以前、勘違いして休日に出勤したことはあったが、今回は僕のうっかりではない。だったら何故誰も姿を現さないのか。


 シロちゃんの机に視線を移す。主が不在の机は整理整頓が行き届いていて綺麗だった。


 彼女は木曜日に早退して以降、体調不良を理由に姿をみせていない。金曜日は欠勤している。必要以上に瑕疵を恐れて無理をする、あの彼女が休んだんだ。何か異常事態が起こっているのではないだろうか。

 そして、月曜日の今日、彼女は連絡も無く出勤していない。彼女の性格を考えればあり得ない状況だ。


 視線をモモちゃんの机に移す。書類が散らかっていて肌が見えない机は、彼女の言動と同じく落ち着きがないように見える。


 金曜日の彼女は様子がおかしかった。嘘をつく事が下手な彼女は、姉の欠勤理由を誤魔化そうと必死になっているように見えた。どう見てもバレバレだった。

 そして、今日は姉と同じく出勤していない。おそらく、寝坊ということでもないと思う。


 視線を室長の机に移す。整理整頓しようとした形跡は見られるが、書類が山となって積み上がっている。


 彼もまた、今日は出勤していない。欠勤するにしたっていつもは仕事の指示があるはずだが、何一つ連絡もない。こんなことは初めてだ。


(何が起きているのやら......)


 モモちゃんの様子から、シロちゃんの欠勤理由は体調不良ではなさそうだ。では、何故休む必要があったのか? シロちゃんは何かの厄介事に巻き込まれたのではないだろうか。

 シロちゃんはいつも一人で抱え込んで無理をする。きっと、それに気づいたモモちゃんが首を突っ込んで二人で悪戦苦闘しているのかもしれない。そんな所なんじゃないだろうか、と僕は推測する。


(また、僕だけ蚊帳の外か)


 確かに、あの姉妹と比べれば、僕は様々な点で劣っている。優れた点など何一つないかもしれない。それでも巻き込んで欲しかった。苦労を一緒に分かち合いたかった。今、姉妹は何をしているのだろうか。


 再度、視線をモモちゃんの机に移す。


 モモちゃん。術式の天才と評される彼女。色々とダメダメな所もあるが、術式に関しては並ぶ者無き才覚を見せている。

 彼女は好きな事と得意な事が一致している人だと思う。興味のある事にはとことん没頭することが出来る人だ。だから、努力を苦にしない。おまけに才能もあるから、常人には辿り着けない高みまでどこまでも登っていける。それが彼女が天才と云われる秘密だと考えている。


 もちろん、僕もモモちゃんの才能に嫉妬することはあるよ、人間だからね。でも、彼女はある意味では雲の上のような存在でもあるから、憧れと呼ぶ方が正確かもしれない。彼女の努力は並大抵のことでは真似ができないのだから。


 そんな彼女の事を隣で見続けていたシロちゃんは、妹のことをどう思っていたのだろうか?


 視線をシロちゃんの机に移す。


 シロちゃん。多芸多才で欠点のない天才と評される彼女。如何なる事も人並み以上にこなし、人を惹きつけ魅了する外面も相まって、全能感を漂わせる。

 ただ、僕がシロちゃんに嫉妬することはなかったと思う。身を切るような彼女の努力を知っていたから。孤高の存在になりつつあった妹を独りにしないように、立派な姉になれるように、彼女は泣きそうな顔をしながら己を磨き続けていた。見ている僕が辛く思うくらいに。


 姉のシロちゃんと、妹のモモちゃん。僕には逆に思えてならない。天真爛漫な姉モモちゃんと、しっかり者の妹シロちゃん。その関係の方が僕にはカチッとハマるように感じる。だってシロちゃんはいつも妹の背中を追いかけ続けていたように見えたから。

 あの両極端で見ていてヒヤヒヤする双子の姉妹は、どこで何をしているのだろうか。


 僕は視線を自席の引き出しに移す。


 シロちゃんの力になりたい。彼女の隣に居続けたいと思っている。

 もちろん、彼女の横に立つには劣る部分が多いことは僕自身がよくわかっている。彼女の力になれることなんて何一つないかもしれない。それでも隣に居たいんだ。苦楽を共に分かち合うくらいならば。擦り切れるまで頑張ってしまう彼女を休ませるくらいなら僕にも出来るはずだ。


(もう随分と待った。だが、3人が現れることはなさそうだな)


 僕しか居ないこの研究室は、実質休業状態だ。僕も抜け出したって問題はないだろう。あっても、後で怒られればいいさ。

 だったら、このまま彼女を探しに行こう。困っているのなら手を差し伸べに。何も問題が起こっていないのなら下らないお喋りをするために。

 モモちゃんにも言われたよ、待ってるだけじゃダメだって。その通りだと、今の僕は思うよ。


 そうして、僕は引き出しの奥に隠しておいた触媒に手を触れる。

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