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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-5. 囚われたお姫様は

(ふぅ。ようやく帰れたわ)


 最終列車を降りたシロは大きく息を吐く。

 既に日は落ち、大森市の駅舎は触媒の光源で明るく照らされていた。構内には帰路に着く人々で溢れている。


(少し休憩したいかな)


 7等級車両での長旅を強いられたシロの顔には疲労の色が隠せない。長時間休憩の与えられなかった脚が悲鳴を上げている。荷物を持ち続けていた二の腕が棒のようになっていた。

 構内に併設されている飲食店に入ったシロは、紅茶を頼むと近くの席に座る。


(いい機会だ。家に帰る前に思考の整理もここでしておきたいわ)


 シロはこれまでの出来事を振り返るため、思考の海に潜る。


 ーーマナとは、人間の生命に関わる何かである


 そんな荒唐無稽な仮説が今回の原点だった。まるで小説のようなお話だ。研究者として絵空事を信じてしまって良いものなのか、今でも迷う時はある。だが、可能性の高い仮説としてモモと共有している。


 マナの正体。今のところ、裏付けは統計情報のみだ。

 人類の生命活動に関するあらゆる数値が下がっている。この現象に対する別角度からの反証は出来ていない。故に、仮説の域を出ることはない。


 風島の術式。秘匿するかの様にプロテクトをかけられた術式。マナの正体に近づく鍵だと考えている。

 マシロの話から、マナに逆変換する術式で間違い無いと解釈している。そして、術式を起動した結果、人骨が出現したそうだ。これはマナの正体を裏付ける1つになるのだろうか。しかし、そうするとマナとは人間そのものということになるが......。魔法を使うたびに人間が1人消え去るのだろうか。それこそ荒唐無稽なオカルト話ではないだろうか。

 術式自体の解析はモモが進めている。この結果とマシロの話を合わせれば、仮説の信憑性が高まると期待する。


(ふぅ。現時点で分かっている事実はこんなところだろうか)


 紅茶を飲み終えたシロは時計を見る。脚に若干の気怠さは残るものの、長居をするわけにはいかない。モモの待っている自宅へ帰らなくては。


 帰り支度を始めたシロは、何かを思いつき売店へ足を向ける。


「あの、持ち帰りって出来ますか?」

「ええ、出来ますよ。どれになさいますか?」

「じゃあ、このチーズケーキを2つお願いします」


 帰ったら頑張っているモモを労ってあげよう。甘い物を好まない妹でも比較的食せるケーキをシロは選ぶ。1人では本当に心細かった。モモが協力してくれているから私は派手に動ける。その感謝もこのケーキに込めて。

 妹はちゃんと1人で生活できていたのかしら。自宅でモモの愚痴の嵐を聞かされる情景を想像し、シロは苦笑する。


 ◇


「すみません。少しよろしいですか?」


 駅舎から出るとすぐに、シロは背後から声を掛けられる。

 振り返ると2人男性が並んでいた。休日にも関わらずスーツを着こなす彼らだが、市井では見ない眼光の鋭さと、服の上からでも分かるガタイの良さに少したじろぐ。


「白神シロさん......でよろしかったですか?」

「ええ。そうですが」


 少しだけ後ずさりながら頷くシロに対して、男性は言葉を続ける。


「実は妹さん、白神モモさんの捜索願いが出ておりまして」

「え? どういうことですか?」

「昨日からモモさんの行方が分かっていないんですよ。それで友人の青木アオさんから捜索願いが出ております」

「昨日......」


 マシロと面会していた日。だが、行方不明とはどういうことか。困惑するシロは続きを促す。


「お姉さん、シロさんにも詳しいお話を伺いたくて」


 そう言うと、男性は視線を左に動かす。視線の先を追うと黒塗りの自動車がそこにあった。警察の公用車なのかしら、初めて見るわ。シロは息を飲む。


「シロさんが疑問に思われることもあるでしょうし、このような場所でお話するわけにはいきませんから。ご一緒していただけますか?」

「ええ。分かりました」


 この男性の言う通りだ。情報は欲しいがここで話せる内容ではない。警察に行けば色々と分かることもあるだろうし、ここは大人しく従おう。シロは男性の案内に従う。


「さあ、中に乗ってください」


 そう言うと、後部座席の扉を男性が開ける。開いた扉から中を覗くと、奥に1人男性が座っているようだ。自動車なんて初めて乗るわ、と緊張気味のシロは中に入る。

 その後、もう1人が隣に座り、シロは両隣を男性に囲まれる配置で座ることとなった。


(あれ?)


 ふと、シロの脳裏に疑問が浮かぶ。


 捜索願はアオが出した。恐らく、自宅へも行ったんだろう。だが、アオはシロも不在ということに疑問を感じなかったのだろうか。普通は、姉妹両方の捜索願を出すのではないだろうか。


 この男性達は、駅舎から出た直後のシロに声をかけた。まるで待ち構えていたかのように。だが、この時間に駅舎にいる事実を知るのはモモだけだ。対外的にはシロは病気で自宅療養中なのだから。この人たちはどうやってそれを知った?


「あの......」


 声を出そうとするシロの口元を何かが覆う。微かに薬品の匂いがした。呼吸ができず息苦しさをシロは覚える。

 視線を右に向けると、男性が何かでシロの口元を押さえつけていることが分かる。遠ざけようと抵抗するがシロの細腕では相手にならない。

 しばらくして、シロは意識を放り出した。


 ***


 全身を纏う寒さでシロは目が覚めた。


 辺りを見回す。薄暗い室内は、コンクリートの壁や床で囲まれており殺風景だ。視線を右に向けると、金属製の格子で遮られている。まるで独房のようだ、とシロは感じる。

 次に、シロは自身の様子を見る。着衣に乱れはない。駅舎を出た時の服装のままだ。だが、手元に見慣れないものがある。


(これは......手錠?)


 シロの両腕を拘束するように、手首には金属製の何かが着けられている。自由を奪われている状況に、シロの頭は疑問符で埋め尽くされる。


 カツカツ、と聞こえる靴音にシロは頭を上げる。格子の外には制服の男性がこちらへ歩いてくる様子が見えた。静まる室内に無機質な靴音が響き渡る。


 格子の正面に立った男性は言葉を投げる。


「白神シロ被疑者、面会だ。すぐに準備しろ」


 掛けられた言葉に何一つ理解出来るものがない。シロはそう思った。

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