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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
2. 選択のその先には
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2-1. プロローグ


第2章のプロローグは、黒柳クロ室長の視点の閑話となります。

時は遡り、第1章の1話(1-1)・2話(1-2)の頃のお話です。


第2章の本編は次話(2-2)からとなりますので、よろしくお願いします。


「人工的に雲を作り出すためには、細かい粒子を投入した高湿度の密室を低温減圧する必要があります。この術式は、低温減圧する工程を分割してーー」


 術式研究課との打ち合わせに出席している俺は、先程から目の前にいる課長の長ったらしいご高説を聞かされている。

 今日の主旨は、魔法考古学研究室と術式研究課の間で合同調査する案件の費用負担の話だったはずだが。どう考えても、関係ない話だろうこれは。


「整理すると、減圧する術式の効率化に難航しているというお話でよろしいですか?」

「その通りです。それにしても、黒柳さんは術式に関してもお詳しいのですね。若いのに勉強熱心で感心しますよ」


 どうやら、この課長は非研究職の俺への当てつけに関係ない話を長々としていたようだ。管理職でありながら時は金なりという言葉を知らないようだ。この課長は無能だな、と俺は心の中で失格の烙印を押す。


 俺は今年の春から新設された研究室の室長となった。周囲では異例の大抜擢とみられている。だが、この課長のように良く思わない連中も多く、こうして嫌がらせじみた対応を受ける事がある。もう慣れたものだが。


「でしたら、うちの新人にやらせましょうか。才能豊かで将来有望です。きっと望む結果を得られるでしょう。もちろん、うちの研究室名義で成果報告させていただきますがね」


 暗にモモの存在を口にすると、相手の課長は苦虫を噛み潰したような顔をした。少しだけ溜飲が下がる。

 術式研究課にとって、白神姉妹は喉から手が出るほど欲しいだろうからな。あの輝く才能は、磨けばどれ程の存在に成長するのか底が見えない。


「そう言えば、また黒柳さんの新人が報告書の提出を怠っているようですよ」


 モモか。アイツめ!


「黒柳さんは管理職になって日が浅いですからね。新人教育に手が回らないのであれば、白神モモはウチの課で引き取りましょうか?」

「お気遣いありがとうございます。そして、部下に不手際があり申し訳ございません。すぐに提出させますので、これ以上のお気遣いは不要です」


 目の前の課長の嫌味に顔を引き攣らせながら、俺は謝罪した。

 研究室に戻ったら、アイツを問い詰めてやる!


 ***


 研究室には全員が揃い、思い思いの行動を取っていた。


 モモを叱り飛ばした後、俺は自分の業務を進めている。目の前では、今日もシロとアオが青臭いやり取りを繰り広げていた。


「室長、ラブコメです。この研究室からラブコメの空気を感じます!」


 書類仕事をしていた俺に、騒ぐモモが話を振る。彼女の顔をじっと見つめる。


 白神モモ。術式に関しては圧倒的な才能を持つ天才だ。魔法省内でも屈指だと思う。このまま成長すれば偉大な実績を残した研究者の1人として賞賛される逸材になるだろう。だが、お前は()()()()()()()。お前の光輝く才能を持ってしても不足だと見なされる。選ばれなかった事が、不幸な事なのか、幸せな事なのかは分からないけどな、と俺は苦笑する。


「よし、換気だ! 部屋の窓を全開にして空気を入れ替えるぞ」


 モモの悪ノリに乗って、俺は研究室の窓を全開にする。窓の外では、雲が西から東へと流れており動きがとても速い。どんよりと黒ずんだ空からは今にも雨粒が落ちてきそうな様子だ。まるで、俺の心模様を写しているようだ。


 今にも泣き出しそうな空を、俺は睨みつけながら思いに耽る。


 ーーマナ。未だ正体の分からないエネルギー資源

 だが、人類が魔法を発見してから既に300年経っている。人類はそこまで無能なのだろうか。否だ。人類は既にマナの正体に辿り着いている。

 では、何故民衆はその事実を知らない。そんなことは決まっている。隠されているからだ。権力者にとって都合の悪い事実だから。


 彼女たちはおかしい事に気づかないのだろうか。


 ーー魔法考古学研究室。過去に製作された魔法を研究して、マナの正体を突き止めようと日々活動している

 しかし、この研究室は、中央省庁である魔法省の管轄組織だ。魔法省大臣直属の組織でもある。そのマナの正体を知る者たちが、我々に正体を探せと命令する。


 この矛盾に気づいた時、彼女たちは何を思うのだろうか。


 そもそも、今年の新人4名は全員が同窓だ。その内の3名は1つの研究室に集められている。普通、新人は分散して配置するものだ。組織の人材補充の観点でも。人材育成の観点でも。

 そして、集められたのは『実妹』『幼馴染』という極めて親しい間柄の人間だ。誰にとってかって? 決まっている、()()()()だ。

 そして研究室が設立されたのは、今年の春。つまり、彼女の入庁に合わせてだ。まるで白神シロに近しい者を意図的に集めて作ったように見える。


 この事実に彼女たちは気づいているのだろうか。


「クロ室長! 早く窓を閉めてください。書類がバラバラになっちゃいましたよ」


 シロの糾弾に慌てて窓を閉めたが少し遅かったようだ。作業机に積み上がっていた書類の束が床に散乱している。片付け手伝うよ、とシロを慰めるアオの声が聞こえた。


 ーー今日も彼女たちは呑気に日々を過ごしている。無知とは幸せな事なのかもな。


 そう思いながら俺はそっと溜息をつく。

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