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終わりゆく世界の過ごし方  作者: なか
1. 魔法と共にある世界
14/40

1-12. “知る”ということ(3)

「アオくん。モモ。2人に相談があるの」


 シロは2人の顔を順番に見つめた後に、言葉を続けた。


「風島の術式なんだけれど、プロテクトが解けなくて解読できなかったことにしたいの。2人の意見を聞きたいわ」


 2人はシロの言葉に目を瞬かせる。


「シロちゃん、どういうことか説明してほしいな」

「分かったわ。順番に説明していくわ」


 そう言うと、モモの方へ視線を向ける。


「モモに質問。術式にプロテクトが掛かっていること自体は珍しいことなのかしら?」

「うーん。珍しいとは思う。けど、他の事例はいくつもあると思うよ。お姉ちゃんの聞きたいことってそういうことでしょ?」

「そうよ。風島の術式だけ特別にプロテクトが掛かってるかどうかを知りたかったの」

「うん。珍しいけど特別ではないはず」


 想定通りの答えにシロは頷く。


「じゃあ、次の質問。プロテクトを解読することは難しいのかしら?」

「私は解読できるよ!」

「モモが凄い事は知ってるわ。モモ以外はどうなの?」


 断言はできないけど、と言うモモは言葉を続ける。


「多くはないけどゼロではないんじゃないかな?」

「そう。分かったわ」


 魔法省には全国の術式研究者の中でも精鋭が集まっている。つまり、魔法省にはモモ以外にも解読できる研究者がいる。

 その前提で考えよう。シロは整理し、質問を続ける。


「アオくんに質問。そもそも、術式にプロテクトを掛けようと思う場合ってどんな時だと思う?」

「秘密にしたいから? 術式を解読してほしくないから。ってところなんじゃないかな」

「好き勝手に起動してほしくない術式にもプロテクトを掛けることがあるよ、アオちゃん!」

「2人ともありがとう」

「でも、風島の術式にプロテクトが掛かっている理由は、術式自体を解読しないと分かんないよ」


 風島のケースは理由が今のところ分からない。一般的には、秘匿もしくは起動制限を掛けたくてプロテクトする。纏めるとこんなところかしら。


「じゃあ、次。秘密にしたい術式ってどういう物なのかしら?」

「影響力が大きい、とかかな。モモちゃんは分かる?」

「アオちゃんと同じ意見かな」

「そうね。影響力が大きい、例えば多くの人を救う術式を私たちが見つけて解読する事は良い事なのかしら?」


 シロの問いに2人はしばらく考え込む。


「良い事なんじゃないのかな」


 アオは答える。広く周知した方が人類のためだよ、と言葉を重ねて。


「分からない。お姉ちゃんは悪い影響を与える術式を見つけて解読してしまった場合のことも心配してるんだよね?」


 モモは答える。シロの考えの先を読む彼女は、風島の術式も善悪は解読してみないとわからないね、と続ける。


「ありがとう。モモの言う通りよ」


 術式は解読してみないと善悪が分からない。だから、風島の術式を解読することの良し悪しは今すぐには判断できない。シロはそう考える。


「シロちゃんが気にするのは、解読することの良し悪しなの?」

「それだけじゃないわ」


 シロは大きく息を吸い込む。ここからは全てシロの想像の話だ。暴論に聞こえるかも知れない。


「既に風島の術式を誰かが解読していたとしたら?」


 この仕事は大臣直々の依頼だと聞いている。だが、術式がいつ発見されたのかをシロ達は教えられていない。

 もし、既に魔法省内で解読済みの術式を、大臣がシロ達に調査依頼したのだとしたら?


「流石に飛躍し過ぎなんじゃないかな、シロちゃん」

「でも、術式のプロテクト自体は解読終了している可能性はあるわ。だったら、術式も解読できているかも知れない」

「誰も解読できなかったから、シロちゃんとモモちゃんに任せたんじゃないの?」

「よく考えて、アオくん。私たちはまだ半年の新人研究者なのよ」


 確かにモモの才能は凄い。魔法省内でも屈指だと思う。だが、新人研究者に頼るしかないほど魔法省の研究者はレベルが低いのだろうか。勤務経験というのは無視できる要素なのだろうか。

 これまで積み上げた経験にて培った知識で補うことにより、モモの才能に匹敵する能力を持つ研究者が居たって不思議ではない。シロはその可能性を見ていた。


「お姉ちゃんはなにをそこまで心配しているの?」

「私たちの反応を観察しているんじゃないかと思うの」


 風島の術式を解読できる能力を持っているのか。

 解読した結果、知った事実に対してなにを思い、どのように対応するのか。反応を探っているのではないだろうか。


「何のために?」

「それは......今は分からないわ。ただ、風島の術式にはプロテクトを掛けようと思うだけの何かがあると思うの」


 そして、そこまでの術式の秘密を暴いた先には、厄介ごとが待っている可能性はあるのではないか、シロは心配している。


「だから、私はプロテクトを解読できなかった振りをした方がいいと思う。愚直に手の内を全て明かす必要はない、ここ最近でそれを学んだわ」


 解読できなかったのだから、術式の秘密は知らないことにできる。

 ゆっくり時間をかけて秘密裏にモモと術式の解読を進めて、有益だと判断したら後から報告すれば良い。


「私はお姉ちゃんの意見に賛成する。厄介ごとはゴメンだよ」

「シロちゃんの考えは分かった。僕も賛成する。でも一つ教えて。シロちゃんは誰を仮想敵だと思ってるの? まるで誰かの脅威を恐れているような感じだけど」


 ......。


「今は分からない。それに、初めから敵なんていないかも知れないわ」


 ◇


「2人とも長い時間、お話に付き合わせてしまってごめんなさいね」

「平気だよ、シロちゃん」

「私も大丈夫。むしろ、お姉ちゃんに相談されて嬉しかったよ」


 相談を切り上げると、シロ達は明日のために眠りについた。早朝には帰路につくため、早く眠りにつく必要がある。

 ただ、シロだけは中々寝付くことができなかった。私の選択は間違っていないだろうか。その言葉が頭の中で繰り返していた。

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