お家を聞いても分からない
猫の身体って柔らかいですよね。
時間はリンが街への道のりをバステトに案内させていた時にまで戻る。
リンはかれこれ5時間、彼女の足を持っても未だ町に着かない現状に、流石のリンも疑問を覚えていた。
「ねぇ……バステト」
リンは自身のドライブに話し掛ける。鬱蒼と繁る森の障害物をするすると抜けながらも走る速度少しも緩む様子はない。
『どうしたのですかリン?』
悪びれもしないドライブのその様子に、リンは自分の顔がひきつるのを感じた。
「君……もしかして迷ったにゃ?」
『ナ、ナンノコトデスカー?』
腕輪なので顔は見えないにも関わらず、バステトがボクから目を逸らしている様子が容易く想像できた。
「正直に言えば怒らないから言ってみるにゃん」
ちょっとイライラしながら聞いてみた。その効果は絶大だったようにゃ──
『べ、別にマップが使えなくなったとか! 私の案内を信じて何時間も走り回ってるリンに、今更言い出し難かったとかそういうことは全っ然ないのですよ!?』
「バステト嘘が下手過ぎるにゃんっ!?」
自分のドライブがこんなに嘘か下手にゃんて……誰に似たのかにゃ?(←こいつなのです)
はぁ……まさかマップが使えなくなってるにゃんて思わなかったにゃん。これもあのエラーの影響かにゃ?それなら他の機能は……
「サーチは使えるにゃん? 他にもトークやら色々機能があるにゃ、それも使えなくなってるにゃん?」
『……はい、誠に遺憾ながらです』
こっちに来てからギルメンから連絡が一つも来ないのはそういうことだったかにゃ。
はぁ……そういえば異常はその前から気付いてたにゃん。
アイテムボックスをしまって後、彼女たちは街へ向かった。その時リンは持ち前の神経を用いて人の気配を探知しようとするも──
「何でモンスターしかいないのにゃ~!?」
彼女の探知範囲は半径100kmにまで及ぶ、その距離凡そ東京都庁を中心とすると北には宇都宮。南には富士山を覆い隠せるほどの膨大な範囲。
それほどの納涼を持ってしても人の気配一つしないのは明らかに異常である。いるのは野生のモンスター位である。断じてポ○モンではない。
「もしかして人類全滅したのかにゃー……?」
と突拍子もない想像をし、涙目になりながら、うにゃ~、と力無く項垂れるリン。
『やりましたね! これで世界はリンとバステトだけのもの! リンアダムとバステトイブなのですっ!』
「なんでやねん……」
と思わず素が出てしまったリン。
「そもそもなんでボクがイブじゃなくてアダムなのにゃ!?」
『えー、だってリンはアダムって感じなのですよ。特に胸とか!』
「ぺったんこだと言いたいのかにゃ!?」
そんな呑気なドライブにリンの堪忍袋の緒は遂に切れた。
「そもそも! バステトが『街はあっちですね』って自信満々に道案内しててにゃん! いつまでも迷ってるって言わないからこんなことになるのにゃっ!!!!」
『なにおーう? それならリンだって「ボクの気配察知能力は世界一ぃ!」とか意味不明なことを自信満々に言って、走ってたわりには、人の気配の一つも見付けられてないのですか!』
不毛な言い争いである。そんな感じで彼女たちは絶賛遭難中なのである。
「『このオタンコナス!』にゃ!」
悪口まで同じ。やれやれ、誰に似たのだか。
そんな風に無駄に言い争いを続けていると
「むっ……?」
『リン?』
リンは何かを察知したのか長いしっぽをピンッ! と立てると
「悲鳴が聞こえたにゃん!」
誰かが助けを求めてるにゃ!リンの耳には確かに悲鳴が聞こえた。リンの聴力は100km先で這うミミズの音すら鮮明に聞き分けることができる超高性能な代物だ。
『助けに行くのですか?』
バステトは聞いてくる。何を今更、ボクがすることなんてお見通しの癖に、意地悪だにゃあ。勿論バステトにはボクが聞こえた声は少しも聞こえてないだろう。でも幻聴だと疑わずそう聞いてくれるのは信頼を感じるにゃ……。ボクはにっと笑みを浮かべると
「当たり前だにゃ! それがボクに出来る唯一の取り柄なんだからっ!」
やれやれ、困ったご主人を持ったのです。とバステトは呟き
『なら、付き合ってあげるのです』
ボクは彼女の信頼に感謝を籠めた言葉を放つ。恥ずかしいので短く。
「ありがとっ」
そして起動する。身体に眠る呪文を──
「ドライブ」
腕輪は形を変え、元々異常に鋭かったリンの感覚は更に研ぎ澄まされる。
『リンの思うままに』
次の瞬間リンの姿は霞み、そして消えた。
リン「出番……」
バステト『つ、次あるのですよ!次!』