知らないものは口に入れちゃだめっ!
猫って色んなもの拾ってきますよね、例えば……Gとか(ゴースト!?)
それは目が覚めるほどに美しく、恐ろしい花だった。
その花が初めて発見されたのは今から150年前。ある村の近くにある森の奥深くで発見された。
ある日一人の青年が狩りに出掛けたまま帰ってこなかった。
青年は獲物を追いすぎて山の奥深くに迷い込んでしまった。帰り道も分からず途方に暮れていると、甘く蕩けそうな香りがふわっと鼻の神経を誘惑した。
かれこれ数日間ずっと水だけしか飲んでいなかった青年は、その甘い匂いする方向へ、まるで蜜に吸い寄せられる虫の様に進んでいった。無意識の内に進んで行くと鬱蒼とした木々の連なりが途切れ、明るい場所が見えてきた。
人里かっ!?と青年が森の暗闇から抜け出すように足の速度を速めた。そして甘い匂いを釣られ、着いた先で青年が見たものは──
野原一面に咲く赤い花だった。
青年はこの世の場所は思えない光景に茫然見蕩れ、青年の身体はどんどん花に吸い寄せられていった。そして無意識の内に青年は花の一輪を手に取り……
蜜を飲んだ。
するとたちまち青年の身体の怪我が治り、これまでの疲労や困憊が嘘の様に取れ、そしてずっと青年のお腹を締め付けてきた空腹までもがその鳴りを潜めた。青年は周りに咲いている花を摘み、その後村へ持ち帰った。
村では怪我をして働けなくなった狩人や、街から離れていることもあり、医者に見てもらえずに病を重くする者も多かった。その者たちに青年は持って帰ってきた花の蜜を与えると、たちまち怪我や病が完治した。
そして数週間が経ち、その花の噂を聞き付けた冒険者が村へ訪れると、そこには──
大量の死体が転がっていた。
この花──通称天上墓褝は猛毒を持つ花、所謂毒花の一種で、その花の蜜には大型のモンスターでも死に至るような猛毒が含まれている。
この花の特徴は、甘い香りを漂わさせてターゲットとなる生き物を誘き寄せてその蜜を飲ませることだ。そしてこの毒の恐ろしい所は毒だと気付かないことにある。
天上墓褝の蜜を飲んだ者は、体内細胞が活性化され、まるで若返ったかのように身体が軽くなる。しかしこの毒の真価は他にある。この花の最も恐ろしく凄まじい所は
活性化の過程でどんな怪我や病も完治してしまうというどんな薬も面目を潰すような効果があるということだ。
しかしこれには恐ろしい副作用がある。それは活性化した細胞がその強烈な負担に耐えきれず自壊してしまうこと。
つまり蜜を飲んだ者は全身の細胞を破壊され死に至る。
これを知らなかった青年や村の人々は、何も知らないまま天上墓褝の蜜を飲み、飲んだ者は青年も含め、村の人々は数日間の内に死に至った。
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マリーは傷だらけになりながらもそれを見付けた。
「あった天上墓褝!」
これでアリーも村のみんなもきっと良くなる!そう思って喜んでいた彼女。しかし、次の瞬間その喜びは恐怖に変わる。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
身体の芯まで震え上がるような恐ろしい咆哮。
マリーは木の陰に隠れ、先程の咆哮の聞こえた方を覗いてみると……
真っ赤な花園に一匹の竜が舞い降りた。
「すごい……!絵本でしか見たことない」
マリーは好奇心が強く、よくそのことで母親に怒られていた。しかも今回、その好奇心は裏目に出てしまったようで。
ガサッと木葉の揺れる音。マリーは無用心にも木を揺らしてしまったのだ。それに気付いた竜はマリーの存在に気付いたのか口を大きく開けると再び──
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
と爆音のような咆哮を上げた。これにはマリーも思わず
「きゃあ!!!?」
と悲鳴を上げてしまった。
そして目が合ってしまった……竜の獲物を見付けたと告げる目と。マリーはそろ~と逃げ出せないかなー?と忍び足で出来る限り音を殺し、少しでも後ろに下がろうとしていると。竜は興味を失ったのか急に翼を広げると
『GAAAAAAAAA!!!!!』
と一鳴きした後飛び去ってしまった。
暫くしても戻ってこないことを確認したマリー。彼女はへなへなと膝を地面に付けた。腰が抜けたようだ。
「あんなのが来るなんて聞いてないよ……」
昔の文献にそんなことが書いてあるはずもなく、そもそも山の奥深くというキーワードだけを頼りに森に入ったマリー。彼女がここまでこれたのも運が良かっただけだったりする。本来なら道に迷って、途中でモンスターに食われたりしても可笑しくないのだが、本人がそのことに気づく様子は全くない。
「さ、さてとっ!さっさと天上墓褝収穫して、アリーを治すぞっ!おーーー!!!」
と一人でえいえいおー!と気合いを入れているマリー。しかしマリーは気付かなかった。彼女を上空10000mから見下ろす目が合ったことに……
数分後、天上墓褝の咲く野原で誰かの悲鳴が上がった。
リン「ねぇ?」
バステト『どうしたのですかリン?不機嫌そうですね』
リン「最近ボク達の出番少にゃくにゃいかな……?」
バステト『気のせいではないのです?』
リン「気のせいじゃにゃいよっ!?昨日だって最後の数行だけしか出番無かったにゃ!今回に限っては一度もにゃいじゃにゃいにゃっ!」
バステト『もう少しで活躍できるのですから我慢するのです!』
リン「うにゃ……」
それから数時間まで、にゃーにゃーと不満を嘆くリンとそれをあやすバステトの姿があったという。