カルテNO.2 中村(武闘家)2/8
2
「いや、特にねぇなぁ。いつもみたいに、モンスターを倒しながらお宝を集めて、そろそろいい頃合いかなってところで引き上げたんだ」
「そうですか……」
医師は電子カルテに入力した中村の診療情報を眺めてしばらく思案した後、「夜は眠れていますか」と聞いた。
こんどは中村のほうが面食らいつつ、「え? 夜ですか?」と聞き返した。
「でも、そういえば……」
中村は思い当たる節があるようで、気恥ずかしそうに「おかしな夢を見て飛び起きることがあるなぁ」と言った。
「おかしな夢、ですか」
医師に促されて中村が語ったところによると、寝ようと思って部屋の明かりを消すと何となく体が緊張し、「おかしいな」と思っていると、ダンジョンの中でモンスターに襲われる夢を見て目が覚めてしまうとのことだった。
夢を見た後は、なかなか眠れないこともあり、そんな時には部屋の明かりをつけてうずくまっているという。
「モンスターに襲われる夢とのことでしたが、どんなモンスターですか?」
医師から聞かれ、中村は表情をこわばらせて「…… ドラゴンに……」と答えた。
医師は中村の表情を確かめながら、「最後にダンジョンに潜ったときにも、ドラゴンと遭遇しましたか?」と聞いた。
中村の顔はみるみる青白くなっていき、冷や汗を流しながら「ああ……」と答えた。
「俺はあの時、ドラゴンと闘った」
大男の中村の喉から絞り出された声は、かすれて震えていた。